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NYアート系パンク精神を受け継ぐスマートで凶暴で完璧に聞こえる音楽:Eli Keszler 『Catching Net』

昨年の夏、ブルックリンを拠点とするパーカッショニストというかマルチ奏者であり、ペインターでもあるらしいエリ・ケスラー(Eli Keszler)氏の音楽に出会った。

最初に触れた音楽は、壁面上に四方八方に張りつめたピアノ線を電子制御されたモーター付の鉄の棒がランダムもしくは非ランダムで叩くことで、空間になんとも言えず重厚で緊張感ある持続音を発生させるインスタレーションに、ケスラー氏のパーカッション、その他打楽器、弦楽器等が絡むというもの。インスタレーションを用いた演奏という時点で、ハッハーン、現代アート的なアレね、と敬遠される向きもあろうが、それは少し(個人的にはかなり)もったいなく、PANから昨年出た2枚組『Catching Net』について、ネットにほとんど日本語の情報がないため紹介しておき度。これはまじ名盤。

Catching Net

Catching Net

一枚目はスタジオ録音。1曲目と2曲目は、Keszler氏自身が運営するRel Recordsから出されたLP『Cold Pin』と同内容。このCDでは三曲目に「Cold Pin 3 (Ensemble)」が追加されている。Ashley Paul(アルトサックス他)、Geoff Mullen(ギター)、Greg Kelley(トランペット)、Reuben Son(バスーン)が参加。

二枚目は、Keszler氏含むストリング・カルテットと、Sakiko Mori氏(ピアノ)がインスタレーション作品を設置した会場で行ったライブ録音や、屋内と屋外インスタレーションの音を拾ったものを収録。

ピアノ線というと、アルヴィン・ルシエの『 Music on a Long Thin Wire 』を想起するが、ああいういかにもな単調さはない(あれ好きやけど)。ちょっとAMM的な重くざらざらしたノイズ感もあるが、適度な隙間感覚が聴いていて疲れない。グラヴィティ・ロールなるドラム技法を駆使しているらしい、毒蛇に飲まれた雲雀の舌のような高速パーカッションと、管楽器やギターのドローンっぽい絡まり様が、60~70年代プログレから、00年代ミニマルテクノまで通過しつつもジャズ理論に精通した知的な若者の挑戦のように思われ文句なしにかっこいい。さらにかのGramophone誌にも上記アルバムのレビューが掲載されているが、いわゆる「現代音楽」的な小難しさ、小賢しさを一切感じさせず、NY伝統のパンク精神を現代音楽の文脈で受けついだかのような、そのスマートかつ凶暴な音像は、実に新しい。というかグラモフォンのレビューにもあるように、このケスラー氏の音楽に漂う「なんかスペシャル」な雰囲気は、いったいなんなんであろうか。これから人気も知名度も更に上昇するとは思うが、早めの来日に期待したいところ。

というわけで、これほど聴きやすく、飽きなく、疲れなく、スリリングでかっこいいノイズ系の現代音楽はこれを置いて他にないんではないかと思うくらい、惚れ込んでしまい、今ではほぼエリ・ケスラーしか聴いていないくらいである。

 

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