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ブリアルの新作EP 『Young Death/Nightmarket』レビュー:前作で大きく変化、本作で大きく進化

ブリアル 3年振りのEP『Young Death/Nightmarket』

ブリアル(Burial)が昨年末にリリースした新曲2曲収録の12インチEPを買いました。と言ってもいま手元にターンテーブルがないので、iTunes Music Storeにてダウンロード版を購入。過去2作のEPは2~3曲で30分近くあったのに、今回は残念ながら短い。2曲で13分。

Young Death/Nightmarket [12 inch Analog]

Young Death/Nightmarket [12 inch Analog]

 

しかし内容はいつもどおり、何度もリピートしてしまう中毒性があって実に素晴らしいものでした。ブリアルはここ数年、完全に脂がのっているというか、後世になって第二期黄金期と呼ばれそうなほど、充実した曲を連発しているように思います。この路線で早いところフルアルバムを出してほしいです。

最近のブリアル作品の傾向は、ダサいと言っても過言ではない、ベタな、コテコテな、言うまでもなく人によってはメランコリックな、シンセサウンドを大胆に織り交ぜながら、NEWロマンティックな変調サンプルボイスと、ざらついたアナログノイズ感といった初期のダークな音像は維持して現代の焦燥感を通底的に表現しながらも、おっさんの夢、これすなわち映画『ブレードランナー』の雰囲気を現実世界に重ね合わせることで現実逃避させてくれるような、実にドリーミーなものになっています。サイケデリックではありません。あくまで具体的なイメージを伴ったドリーミーさです。

まさに私の趣味嗜好に完全一致。

2曲目『Nightmarket』が夢のような展開で最高すぎる

とくに今回のB面(2曲目)、"Come with me."という謎の男のささやき声で始まる、"Nightmarket"は、その傾向が高次元で結実した傑作となっており、もはやダブステップとはほど遠い、万人に聞かれるべき、ドリーミー・ポップかつアンビエントな類まれな作品です。

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曲展開に関する個人的妄想(を受け入れる懐の深い音楽)

前半は若干凡庸な、といってもブリアルらしいダークなアンビエントが続いて雰囲気づくりが行われますが、3分20秒あたりで聴こえてくる2045年のチャルメラみたいな音が雷鳴とともに鳴り響いた後、"Come with me."という男のささやきが、今度は冒頭よりもはっきり聞こえた時点で気分はまさにデッカード。おっさんの脳裏には美人アンドロイドの姿が否応なく浮かんでくるはずです。

その後、かなり遠くに(ヘッドフォン推奨)、スクラッチノイズの奥の方から、過去作品(Rival Dealer?)のサンプルボイスがかすかに聞こえてきて、現実と夢が交錯するかのようなメタフィジカルな郷愁感に呆然自失になっているところで、さっきの美人アンドロイドがやってきて、あろうことか、”The Frontier.”と宣(のたま)います(補足:おっさんは、"Frontier"や"Utopia"といった「いまここにない、より良いもの」を想起させる単語に弱いのです)。

その刹那、キラキラシンセが切り込んできて(この展開でおっさんはすでにいろんな腺/栓がやばい状態です)、先程の美人アンドロイドを演じるサンプルボイスがスクラッチノイズの海の中でなにごとかつぶやいた後、はっきりと、だが今回は切迫した感じで、"Come here.”と言うのが聞こえた途端、どこか人を拒絶するような、天から降りてきたような、奇妙なメロディが一瞬響いてすぐに立ち消え、一分も経たない内に、冒頭の虫の声も混ざるアブストラクトなアンビエントノイズが戻ってきたかと思うと、夢が唐突に終わるように、曲も終わります。

前作で大きく変化、本作で大きく進化

こんな物語風の夢を描いたかのような複雑な展開の曲は、ダークでスモーキーでハードボイルドなサウンドを徹底していた初期には考えられない曲です(ブリアルことウィリアム・ビヴァン氏は、かの90年代ドラムンベースの雄、PHOTEKを、影響を受けたアーティストに挙げている)。

しかし、このように変化しつつも、初期のダークな雰囲気をブリアル節のように残していることが、余計にオリジナリティを感じさせることにつながっているように思われ、それが最初に、今がブリアルにとっての第二期黄金期じゃないかと書いた理由です。

ちなみに、初期と現在をつなぐ作品、つまり2007年の誰もが認めるダブステップの傑作セカンド『Untrue』の4年後、2011年の『Street Halo』は、急に有名になった為に方向性を見失いかけたのかどうか知りませんが、凡庸な四つ打ちやこちらははっきりとダサいメロディ・展開が際立っており、正直かっこよいものではありません。

でもその後『Kindred』、『Truant』とEP発表を重ねるごとに、上述のオリジナリティを獲得していったように思います。前作の『Rival Dealer』に収録の"Come Down To Us"などは、シンセサイザー組曲のようで衝撃的です。

ソウル/R&Bからと思しきヴォーカル・サンプリングのセンスも神がかっています。この曲は、初期ダブステップ原理主義者には耐えられない変化でしょう。私は両方好きですけど。

ところで、今年公開されるらしい映画『ブレードランナー』の続編の音楽は、アイスランドのヨハン・ヨハンソン氏が担当するらしいですね。イメージ喚起力が強烈な同氏の音楽作品も好きなので楽しみですが、ブリアル(ウィリアム・ビヴァン氏)も、今回の作品によって、そうした夢/イメージの世界を描く天才的職人ということが改めて証明されたように思います。

今回のEP以外で、私のブリアルおすすめ作品は以下の3つです。未聴の方はぜひ買って聴いてみてください。

Untrue [解説付 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC322)

Untrue [解説付 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC322)

  • アーティスト: Burial
  • 出版社/メーカー: HYPERDUB RECORDS / BEAT RECORDS
  • 発売日: 2012/02/11
  • メディア: CD
  • 購入: 2人 クリック: 3回
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UNTRUE

ブリアルを最も有名にした傑作セカンド・アルバム。ダブステップの金字塔として歴史に残るはず。いまでも車の中でよく聴きます。ファーストアルバムももちろん良いですが、このセカンドの方がより洗練され、聴きやすいと思います。

TRUANT [解説・ブリアルロゴ・ステッカー封入 / 国内盤] (BRE44)

TRUANT [解説・ブリアルロゴ・ステッカー封入 / 国内盤] (BRE44)

 

TRUANT 

路線変更が決定的になった2012年発表のEP。2曲26分。これ以降、毎回傑作です。2曲とも最高です。

Rival Dealer [帯解説 / 国内盤] (BRE47)

Rival Dealer [帯解説 / 国内盤] (BRE47)

 

RIVAL DEALER 

2013年発表のEP。3曲28分。上述の通り、2~3曲目は、シンセイサイザー組曲のような構成になっており、たしかアマゾンのレビューでどなたかが「クリスマスソング」と書かれていたのが印象に残っております。たしかにそんな感じのキラキラな雰囲気はあって、天にも昇るようなユーフォリアを感じられますが、そこはブリアル、どこかねじれており、最後はやっぱりダークアンビエントです。最後のスクラッチ・ノイズが雨音に聞こえます。

いまのブリアルのサウンドは、いわゆる夢のように掴みどころがない展開をする為か、スルメ度が非常に高くて何度でも繰り返し聴けます。作業BGMやドライブ・ミュージックとしても良いですし、いろんな音が複雑に交錯しているので、ヘッドフォンでじっくり聴いても最高です。

 

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