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SpotifyとBandcampがあればCDはいらない。レコードはいるけど

昨日この記事を読んで、その日の夜にはSpotifyのPremium会員になってました。

昔話

おそらく40代の音楽ファンは、上の記事にとても共感できると思います。

例えば私の場合、「持っているCD/レコード枚数への偏執的な拘り」「ミックステープを作って、レタリングシートでラベリングした経験」「CDの寿命の噂に愕然とした記憶」「雑誌からの情報収集」「中古屋はしご」「レコード屋で数時間過ごした経験」「妻にいつ大量のCDを処分するのか何回も訊かれる」といったようなことは、すべて自分のことが書かれているかのようで、気分がワサワサしました。

インターネットによる音楽消費形態への影響として、上の記事に書かれていなかったことを付け加えるとすれば、「雑誌/レコード屋」(リアル&リアル)から「YouTube/Amazon」(大体ネット)という流れに移行する前に、「個人サイト/Napster/レコード屋」(ちょっとネット)という流れもあったことが思い出されます。

大学時代の2000年前後はアメリカにいたため、高校時代は欠かさず読んでいた日本の音楽雑誌は買えなくなり、インターネットがメインの情報ソースとなりました。

個人サイトのCDの感想や「掲示板」で情報を集め、Napsterでがんばって聴いてみたりして。。。でも、実際は、ダイヤルアップ接続のため通信速度は激遅(今ではYouTubeにファンが撮ったライブビデオなどがよくありますが、当時はそうしたファン録音の音源がNapsterに転がっていました=ブートレッグ業界へのダメージにもなった?!)。

それで結局レコード屋にいそいそと足を運び、右手の人差し指でレコードをパタパタ送る仕草を、何百回と繰り返し、おおっ?! というレコードが出てくると、棚から抜き出して眺め、裏面を見て、ちょっと思案してから、またあとで戻ろうと一旦棚に戻し、全部の棚を見て回ってから、途中で気になったレコードを再度抜き出し、棚の上に並べてみてもやっぱり逡巡してしまい、便意の我慢の限界が来てからようやっと、どれを買うかを決めるわけですが、それらの過去の情景を、社会人になり、さらにCDショップがほぼ壊滅状態のシンガポールに来たいまから振り返ると、レコード屋特有の心地よいカビ臭、寡黙な店主との微妙な距離感、美しく豪華なダブルフォールディングジャケット特有の重量感とCDプラケースにはないふっくらとした柔らかさ、といったような嗅覚、視覚、触覚さえともなう記憶が渾然一体となって、若い時にしかできない経験としての特別感を脳内でカビ胞子の舞う光のベールを伴って演出してくれるため、これまでの人生でCDやレコードに何百万円も費やした、という背徳的で甘美な事実に対して後悔の念が頭をもたげそうになるのを巧妙に覆い隠してくれます。*1

そんなインターネットとは関係のない、カビ臭い思い出は置いておくとしても、 インターネットによってまず、音楽流通とはまったく関係ないところで、ミュージシャンとの距離が縮まったことは大きかったです。

私は、一般的にはマイナーとされる音楽を聴くことが多いので、インディーズレーベルのミュージシャンにメールしたら、普通に本人から返事をもらえることが結構ありました。今ではメジャーレーベル所属になった某アーティストに実際に会って、録音中のスタジオに呼ばれたことさえあります。

こうした経験により、2000年代前半には、音楽雑誌は一切買わなくなり、フェイスブックもない頃ですが、自分で(ブログではないフレームがあるような懐かしの!)ウェブサイトを作って情報を発信し、他人とつながったりしていました。

それから社会人になってしばらく経つと、例によって時間がなくなる、というか面倒くさくなるのでウェブサイトをやめてしまい、「大体ネット」の「YouTube/Amazon」形態に完全に移行しました。

YouTubeで曲を聴いてみて、本当に欲しいものはAmazonでCDを買うという流れです。

その形態が昨晩、Spotifyの凄さに気づいて崩壊しました。

Spotifyへの勝手な、恥ずかしい誤解

いやー、Spotifyって、なんか名前が軽いじゃないすですか。スポンっと抜ける感じで。

あと、「スポ」が「スポーツ」を連想させるので、なんというか、鬱屈したマイナー音楽好きには、なんの根拠もなくちょっと敬遠してしまうような感じもありました。

あと、正直Spotifyのロゴっていまいちじゃないですか。ちょっと傾いた電波マークのせいで、ぼてっとした、腐った緑のまんじゅうみたいというか。

などと、アホなことを言いながらも、周りのシンガポール人はみんなSpotifyを使っているので、もう随分前に、以前使っていたスマートフォンにインストールはしていました。

それでアプリを立ち上げたら画面に出てくる、あの「トップなんとか」とか「リラクゼーション」みたいな、チャンネル的なアレ。

アレに拒否反応を示してしまいました。芸術である音楽はアルバム単位で聴きたいという、時代遅れなおっさんの条件反射ですね。

※アレは「音楽発見サービス」を謳うSpotify的には必要なものとあとでわかりました。

一応検索して、好きなミュージシャンの曲を聴いても、シャッフルプレイというやつが気持ち悪いしで、最終的に、ストリーミング・サービスというくらいやから「流行りの曲を、無料で流し聴きできるラジオ的なアプリなんか」と、勝手に誤解して、ぜんぜん使ってませんでした。実際、同僚のシンガポール人は、カーステにつないでラジオ的な使い方をしてましたし。

それが昨日、再度PCから無料会員登録して、よく中を見てみたら、まったく以前と異なる印象で驚きました。

いまだに、ムード対応チャンネル的なアレがあったのですが、自分の好きなミュージシャンをダイレクトに検索したら、買おうと思ってたアルバムが、ざくざく出るわ出るわ。

まさに先月、Amazonで2500円も出して買った、あるアーティストのアルバムが全部Spotify上で聴けるのを見て軽くショックを受け、さらに、3500円もするアナログ盤をAmazonのカートにすでに入れていた、サラ・ダバチー氏(カナダ人女性ドローン作家)の新作もしれっと見つかり、もっとショックを受けました。

それでたった月9.9ドル(約800円)のプレミアム会員になれば、自由に聴き放題ということがわかり、ソッコーでサインアップしていました。

Spotifyに移行してCDは買わないことにした

私はいまだレコード・アニミズムを捨てきれてはいませんが、Spotifyの圧倒的な物量の前には、ひれ伏すしかありません。

私自身、「レコードを300枚以上持ってないやつはヒトと認めない」みたいな発言をする、『Hi-fidelity』(著:ニック・ホーンビー)の主人公的な古いタイプの、どうしようもない音楽潔癖症患者であったこともないこともないですが、Spotify自体は、若い人たちがたくさんの素晴らしい音楽に出会えるプラットフォームを提供していることは間違いなく、「所有するレコードの枚数を競う」かのようなコレクター根性はとっとと捨てて、CDを買うことは基本やめることにしました。

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ちなみに、なんでも記念を大事にしたいのがおっさんなので、(基本的に)最後に買うCDは、来週5月18日に発売される、コートニー・バーネット氏の新作『Tell Me How You Really Feel』にしたいと思います(ま、Spotifyにも全部アルバムありましたけど! ほんまどういうことやねん)。

本当に今更なんでしょうけど、コンサート以外の、音楽を買って聴くという体験が、完全にネット上だけで完結してしまうという時代の変化に感動した次第です。

とくに定額聴き放題サービスでは、プレイリスト機能が、従来の単品購入型サービスよりも圧倒的に楽しいです。

日本に置いたままのCDで聴きたいものもだいたい見つかるので、いちいち持ってくる必要も、データ化して端末に入れてくる必要もなくなったということで、非常に身軽で幸せな気分です。海外赴任になった音楽好きの救世主ともいえるサービスです。

ちなみに「車で聴くCDを焼きたいからiMacを買え。画面大きいの」という無茶な要求をしてくる私の家族は、完全に時代遅れと言えましょう。Spotifyの素晴らしさは、まず身内から伝えていく必要を感じています。ファミリー会員入会待ったなしという状況です。

シンガポールでも音楽の売上は上がり続けていた

私は、シンガポールに来てから、ぜんぜんCD屋がないことに絶望していました。

シンガポール人は音楽をきかんのか! と思ってたらそんなことはぜんぜんなくて、若い人たちはとっくにストリーミングに移行してたんですね。

ちょうど先週、シンガポールのStrait Timesという新聞で、以下の記事を読みました。

記事によると、シンガポールにおける音楽業界の売上は、4年連続で上がり続けているそうです。Physicalが減り続ける一方、Digitalがどんどん伸びています。それでも国が小さいため、シンクロ権やパフォーマンス権取引などを入れた全体でも20億円くらいの市場規模。

なお、シンガポールでもバック・トゥ・レコードの傾向もあるようで、前年比で9.7%もアップしたそうです。ただし、全国売上はたったの55,000ドル・・・。そりゃ店なくなるわ。いまそれでやっていけてることが逆にすごくて、店主はみんな不動産なんかで儲けた金持ちシンガポール人の道楽なのでは、という気がしてきます。どうでもいいけど。

Bandcampでの購入は続けたい

Spotifyの前から使っているオンライン・ミュージック・サービスのひとつに、「Bandcamp」があります。

こちらの良いところは、マイナーでお金がなく、レコード会社に所属できないような、新しいアーティストの作品に出会えるところです。新人だけではなく、すでに有名だけど、メジャーとは言えないミュージシャンも、大体ここでも楽曲を販売しています。どういう仕組みか知りませんが、昔の発掘音源なんかもあります。

以前本ブログで取り上げた、素晴らしすぎる『The Caretaker / Everywhere at the End of Time』は、Spotifyにはありませんが、Bandcampでは格安の5ポンドで買えます。

Bandcampは定額制ではなく、アルバムなどをMP3等のフォーマットで買うことになるのですが(買ったらアプリでストリーミング再生も可能)、その値段は「9ドル以上」などとなっており、いくら払うかは、自分で決めることができ、その収益のほとんどがアーティスト本人に入るそうです。

よって、好きなアーティストを応援したければ、ちょっと色を付けてお金を払うことができます。さらに、作品を買うとそのアーティストを「フォロー」したことになり、アーティストからの新作発表等の連絡がフォロワー全員に送られたりもします。自動的にファンクラブに入る、みたいな感じ。

アーティストとリスナーを直接つなぐ、ということで、CD等の物質的な媒体だけでなく、権利・流通に関する「媒体」さえ取り去ろうとする取り組みとなっています。

SpotifyとBandcampがあればほかはなにもいらない、レコード以外は。という感じ。

なお、Bandcampの危険なところは「大人買い」機能が付いているところです。

Bandcampには、Spotifyにないような作品もたくさんあるので、恐ろしい限りです。

▼Nurse With Woundの超入手困難なアルバムも含む、74枚セットが、596.79ドルからとなっていて、もうかれこれ半年は迷い続けています。

レコードはたぶんまだ買い続ける

Spotifyのストリーミングの音は、当然圧縮されているので、音質はそれほど良いとは言えないかもしれません。

齢40を過ぎ、高い周波数の音はもはや聴こえていないとは思いますが、同じ曲を、同じスピーカーで、大体同じ音量で、Spotifyとレコードで聴き比べをしてみたら、明らかにレコードの方が、音が濃密で、部屋に響き渡る感じがして良かったです。

それは気のせい、思い込み、ということにしても、自分にとっての名盤みたいなアルバムは、レコードで手元に置いておきたい気が、いまでもやっぱりしています。

レコードをわざわざジャケットから取り出して、慎重に針を置き、ソファに腰掛け、ほかにはなにもせず、ゆっくり音楽だけを味わう、という動作含めた体験は、ペットボトルのお茶がある時代に、わざわざ急須で高級なお茶を入れる、という体験にも似て、ほかに替えの効かない価値はまだあると思います。

ストリーミングで音楽を聴く場合は、どうしてもその気軽さから、ほかになにかしながらということになりがちなので。

それに、大金を投じたレコードやCDといったモノが家にあれば、子供が大きくなったときに聴いてくれる、というような考えは、、、、、完全に本人から否定されまくっています。つらい。

さっきからビール飲みながら音楽を聴きまくっているのでなにが言いたいかわけがわからなくなってきましたが、アリス・コルトレーンはやっぱり最高で、この幻の歌はもっと多くの人に聞かれるべきだ、ということです。私はレコードで買ってしまいましたけど。ほんまどういうことやねん、Spotify、最高です。

*1:もちろん今でも日本にはたくさんの中古レコード屋はあるのですが、DJでもない私は、今となっては、同じ情熱をもってレコードパタパタに取り組めない自分を見出してしまいます。

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