J・F・ケネディ大統領の暗殺事件前後を、ナタリー・ポートマン扮するジャクリーン・ケネディ夫人の告白を通して描いた映画『ジャッキー』を観ました。
アカデミー賞候補にもなったナタリー・ポートマン氏の演技が素晴らしかったですが、それよりもなによりも私はこの映画の最中に鳴る音楽に衝撃を受けました。
ジャクリーン・ケネディに焦点を当てて、一人の人間の中にある、複数のペルソナ/本性を執拗に炙り出し、ときに残酷に抉り出し、同夫人の強烈な信念を鮮やかに描きながらも、非常に冷ややかな視線を同時に感じさせる絶妙な脚本・映像の音像化に、ミカ・レヴィ氏(Mica Levi aka Micachu)は完璧に成功しています。
例えば、重厚なストリングスの上をフルートが蝶のように舞う、この"Vanity"(虚栄・自惚れ・虚しさ)という曲などその典型です。
Mica Levi - "Vanity" (Jackie OST)
一方で、映像に花を添える映画音楽ではありますが、映画から離れて、耳にするひとそれぞれにさまざまな感情を抱かせる奥行きとミステリアスな響きが全編通してあまりにも素晴らしく、また、ナタリー・ポートマンの見目麗しくも、J・F・ケネディの血と夫人の情念を表すかのような真っ赤なジャケットも鮮烈で、私は思わずアナログ盤を買ってしまいました(ダウンロードカード付)。
繰り返し部屋で流していると、なぜか遠い未来も感じさせるような不思議な音楽です。とくにエンドロールの後半で流れる"Credits"は、ハードコアなSF映画っぽい雰囲気もあり。
映画に色を添えるサウンドトラックとして完璧なだけでなく、暗さ、明るさ、不気味さ、清々しさ、それに最も大事なユーモアが得も言われぬバランスで配合され、映画を飛び出してリスナーの様々な生活のシチュエーションにも溶け込んでいくような懐の深さを感じさせるこのアルバム、何度聴いても飽きません。
これから一生聴き続けそうな一枚です。
映画をまだ観ていない方は、映画館でぜひ。いま日本で公開中です。
そしてこのアルバムを買って、曖昧に包まれましょう。現実もしくは夢の薄皮に。