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シンガポール少額訴訟やり方まとめ:賃貸マンションの敷金返さないオーナーを裁判所に訴えたった件

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先日、私の日本人同僚が、シンガポールで賃貸マンション(コンドミニアム)の敷金トラブルに見舞われ、少額裁判所(Small Tribunal Court)に返金を求めて訴えました。同様のトラブルに見舞われる方も少なからずいると思われますので、参考までに少額訴訟のやり方について簡単にまとめました。

なお、本記事では私の経験した「敷金トラブル」に関する少額訴訟のやり方だけを書いています。その他のクレームの場合は記入・提出する書類は異なりますので予めご了承ください。また、記載内容に間違いがあったり、変更があったり、それらによる損害等が発生しても私は一切責任は負いませんし、質問にも答えられない場合があります。本記事は2017年10月時点における個人的な少額訴訟の記録であるということも併せてご了承ください。

日本人をなめくさって敷金を返さないオーナー(大家)

シンガポールで新しいマンション(コンドミニアム)に引っ越しました。

その際、以前借りていた私の部屋のオーナー(大家さん)は、割りとスムーズにクリーニング費用等差っ引いて敷金(Secutrity Deposit、デポジット)を返してくれたのですが、私の同僚の部屋のオーナーは、部屋の引渡し検査後に、不動産エージェントを介してクリーニング費用等の見積額(減額分)を提示され、めちゃくちゃ高かったものの合意したにも関わらず、一向に小切手が送られてきませんでした。

待てども待てども指定住所に小切手が届かない。不動産エージェントにどうなってるか確認を依頼しても梨のつぶて。

しばらくエージェントにフォローアップを頼んでいたところ、1ヶ月以上経ってから、「部屋の外の大理石の床が割れているから修理費の半分を負担しろ」などと、写真もつけずにメッセージを送ってきました。当然同僚は、そんなダメージに覚えはないどころか、そもそも引渡し時の確認の際、指摘はありませんでした。引き渡し証書もあります。

この時点で、このオーナーは完全にこちらをなめくさっており(多分日本人やからすぐに日本に帰ると思ったのか)、敷金返す気ないな、と確信しました。もし本当に大理石が割れているなら、その写真を送るなり、修理業者の見積を送るなり、再度立会い確認をするなり、なんらか事を進めるためのオファーがあってよさそうなものです。

その確信通り、一向に小切手は送られてきませんでした。

不動産屋はもうお手上げで「Legal actionをとるしかない」と言うのですが、仕事で付き合いのある弁護士に相談するにしても、軽く数百ドルはかかりそうで、たったの1,200ドルという額を取り返す方法としては割に合いません。また、たとえ弁護士レターを出してもらっても、そんなん無視する人間も多く、金を取り返すという目的から見ると効果のほどは疑問です。

かと言って、なめられたまま泣き寝入りはむかつく。

そこで調べると、シンガポールにも少額訴訟制度があることを知りました。申立てをするのはなにやら面倒くさそうですが、手数料はたったの10ドル、ということだったので、トライしてみることにしました。

手数料一覧表(最終的には負けた方が負担)

 クレーム金額 一般消費者(個人) それ以外(会社等)
5000ドル以下 10ドル 50ドル
5,000~10,000ドル 20ドル 100ドル
10,000~20,000ドル クレーム金額の1% クレーム金額の3%

参考: https://www.statecourts.gov.sg/SmallClaims/Pages/GeneralInformation.aspx

初めてだと確かに面倒くさかったですが、ある程度やり方を知っていると、まさに今年(2017年)から完全にオンライン申請に移行(窓口申請が不可に)したこともあり、わざわざ法律事務所に相談する必要もないくらいには簡単なものですので、以下参考にしてください。

ちなみに、少額訴訟の協議・審問等は、弁護士の立会いは認められません。少額訴訟のやり方を弁護士に相談はできますが、金額的に割に合わないかもしれません。

シンガポールの少額裁判所

少額裁判所(Small Claims Tribunals)は、国家裁判所(State Courts)の中の、一機能として存在します。建物も一緒です(上写真)。入口入って右手の方にロビーがあります。

国家裁判所ウェブサイト

https://www.statecourts.gov.sg/

場所は、1 Havelock Road。最寄り駅はChinatown。駐車場は、Furamaホテルの南側のビルの駐車場が近くてよかったです。

少額裁判所への申立ての流れ

申立ては英語で、"filing a claim"もしくは"Lodging a claim"言います。方法は以下のウェブサイトに詳細な説明があります。最新情報は必ずここで確認しておく必要があると思います。

Community Justice and Tribunals System
(少額訴訟の為のオンライン・システム)

https://www.statecourts.gov.sg/CJTS/

だいたいの流れは以下の通りです。

  1. 訴える内容が少額裁判所の管轄内容かどうかをチェック
  2. オンライン申請(申立理由のテキストと関係証拠書類アップロード)
  3. 協議(Consultation)の日時選択
  4. 手数料支払(2017年からオンラインでカード決済可能に)
  5. 申立完了時に発行される協議日時の通知書(Notice of Consultation)を被告(Respondant)に送る
  6. 被告が通知書を受け取ったのを確認したらその証拠をアップする
  7. 書記官(Registrar)と被告の3名で協議
  8. 協議の結果、和解すれば当事者間で解決し、訴えを取り下げて(Withdraw)終了
  9. 和解できなければ、日を改めて判事(Judge)による審問(Hearing)に進む
  10. 審問日の1週間前までに追加証拠資料をアップ
  11. 審問当日、被告と一緒に判事による審問を受け、その日のうちに判決

上記項目それぞれを解説します。

 

訴える内容が少額裁判所の管轄内容かどうかをチェック

まずはじめに、少額裁判所に訴えることが適切かどうかを、オンラインでいくつかの質問に答えていって確認する必要があります。アパート賃貸に係る訴えは多いようで、それ専用の質問が用意されています。

State Courts SCT Online Assessment Assistant

上記ウェブサイトに行き、「Click here for Tenancy Disputes(賃貸紛争)」をクリック。

すると吹き出し形式の質問が出てくるので正確に回答していきます。1問でも不適格な回答があると、「Oops!」という記載のあるページになり「少額裁判所では話きいてくれないかも」という警告が表示されます。実際こうなると不適格なのであきらめるか、ほかに方法がないか弁護士等の専門家に相談しましょう。

最後の質問まで問題なく進めると「So far so good」(いまんとこオッケー)という記載のあるページにたどり着きますので、オンライン申請に進めます。このページにたどり着かなくても申請はできますが、あとで訴え自体が裁判所側の審査の結果、リジェクトされる可能性は高いと思います。

質問には、最低条件を訊くものがあります。主なものは次の通り。

  1. 紛争は1年以内に発生したものに限る
  2. 賃貸契約の期間は2年以下でないといけない
  3. 請求金額は10,000ドル以内に限る(最大20,000ドルだがその場合は原告・被告間で合意が必要)
  4. 賃貸契約に、紛争解決手段が「仲裁(Arbitration)」と定めた条項がない
  5. 被告側の住所がわかっていること

上記5はあとで調べることもできますが、それ以外は申請が受理されるための必須条件です。

オンライン申請にはSingPassによるログインが必要

申請するには、以下のURLにアクセスし、SingPassでログインする必要があります。

https://www.statecourts.gov.sg/CJTS/

シンガポールで働いているひとは通常お持ちかと思いますが、使ったことのない方は、事前にSingPassとパスワード認証(めんどくさい)を済ませておく必要があります。やり方は検索すればすぐに出てきます。

実際の申請の仕方は、以下に丁寧にまとめられていますので、手順を追えばそれほど難しくはないです。

https://www.statecourts.gov.sg/SmallClaims/Pages/LodgingaClaim.aspx

申請理由や証拠書類のアップロードについて

申請理由は、テキストボックスに入力する形式(文字数制限あり)ですが、いま思えば、理由書をWordなどで書いてPDFにしてアップもできたと思います。ただ、文章は極力シンプルにすべきです(英語)。

賃貸契約にかかる紛争の場合、当該の賃貸契約書と、契約した際の印紙税(Stamp Duty)の支払い領収書コピーは必ずアップロード必要です。印紙税の領収書は、通常賃貸契約をするときに、不動産エージェントが代理で払ったものを渡されると思います。もし契約書といっしょに手元にない場合は必ずエージェントに確認しましょう。

契約書類や写真等の証拠は、PDFやJPGでアップします。

1ファイルあたりのアップロード可能容量は5MBまでです。

協議(Hearing)の日時選択

日時は、最初は原告側の都合で勝手に決められます。ただし、候補日は裁判所側の都合で提示され、申請日から1〜2週間先の日が選べました。あまりにも先の日は選べません。申立て日から2ヶ月以内(3ヶ月だったか?)に和解にしろ判決にしろ、案件は終わらないといけないようです。

手数料(Fee)の支払い

手数料はクレジットカードですぐにオンライン決済できます。この手数料は、勝訴した場合、被告側が原告側に弁済する義務が生じます。勝てば返ってきます。

協議日時通知(Notice)は必ず被告に届ける必要あり!

ここで非常に重要な注意点をひとつ。

上述の申請手順リストの最後のStep 10ですが、オンラインでの申請入力と支払いが完了したら、被告宛の、協議日時の書かれた通知書(Notice of Consultation)をシステムからプリントアウトし、その紙を、必ず被告に「手渡し」、またはトラッキング番号で追跡可能な郵便局の「Registred mail」やOCS等のクーリエ便で送り、かつ、オンラインで相手が受けとったことの証拠(つまり"Delivered"と表示されたトラッキング画面のPDF出力)を、さきほどのオンラインシステムからアップロードする必要があります。

私と同僚は最初これに気づかず、裁判所から被告に連絡がいくものと思っていました。そしてそのまま最初の協議の日を迎えましたが、当然被告は現れず・・・。

担当の書記官は、最初の被告が現れなかった協議の際に、上記注意点を丁寧に教えてくれ、協議の日を再設定し、その日の書かれたNoticeをプリントアウトしてくれました(なお、オンライン申請に移行した2017年より前は、裁判所の窓口で申請すれば、被告に通知書を自分で渡したり送ったりする必要はなかったそうです)。

ここで書くと長くなるので割愛しますが、実は同僚の賃貸契約には、オーナーの住所の記載がなかったため、なかなか通知書を届けることができず、住所がわかるまで非常に苦労しました。エージェントに何度きいても住所を教えやがらなかったので。

協議(Consultation)について

Noticeに書かれた日時に、少額裁判所に出頭します。

ロビーに設置されたキオスク端末に、Noticeにも記載のあるCase No.(ケース番号)を入力するか、Noticeのバーコードを読ませることで、番号札が出てきます。

自分の順番が来たら、ロビーのテレビ画面に番号と部屋番号が表示されるので、部屋に向かいます。

書記官を交えた協議では、お互いの言い分をいうことはできますが、あくまで当事者同士が和解に至ることができるかの協議です。いわゆる調停です。

書記官もどちらかというと和解をすすめるような話し方をしました。お互いの問題点を指摘して「半分半分で合意したら?」なども言われました。

しかし今回の我々の訴えは、あきらかに合意したデポジット返金額を返さないオーナー側に非があると考えましたので、判事による審問(Hearing)まで進むことにしました。

協議では、狭い部屋で被告と書記官と一緒になり、「これ以上やるのもしんどいし、まぁ半分取り返せるなら、ここらで折れよか・・・」などという気持ちが一瞬芽生えるかもしれませんが、自分に非がなければ審問・判決まで進むべきと思います。

ちなみに、今回のケースでは、2回協議がありました。1回目はこちらの訴え(Claim)に基づいたもので、2回目は、被告側からの反訴(Counter Claim)に基づくものです。

被告側から反訴状が出ると、登録しているメールに通知が届きますので、上記のシステムにログインして内容を確認する必要があります。

そこに次回協議の日時についてのNoticeがあると、必ず出席しなければなりません。

審問(Hearing)の日時設定と証人(Witness)について

協議で和解せず、審問・判決(いわゆる裁判)に進みたいというと、書記官が判事による審問と判決の日を決めてくれます(選べる日は少なかったです)。

またその際、証人(Witness)は呼ぶかと訊かれるとおもいますので、証人を呼びたい場合は、その氏名等を伝えると、書記官のPCからすぐに証人登録してもらえるはずです。しかしどうやら審問当日でも、判事に証人を呼びたいと言って、判事が必要と判断すれば、当日でも証人に部屋に入ってもらえるようです。

審問(Hearing)までにすべきこと

協議終了から審問日まではおそらく2週間くらいのインターバルがあると思います。 この間に、証拠書類の整理と、被告側への質問を考えておいたほうがよいです。

証拠書類は番号をつけて時系列でまとめるなど、忙しいであろう判事がぱっとみてわかりやすいように工夫するべきかと思います。

また、これらの追加資料/まとめ資料は、審問当日の遅くとも1週間前にはアップロードしておいたほうがよいようです。直前だと判事も被告も見る時間がないためです。

が、しかし、実際のところ、判事は資料などほとんど事前に見ていなかったようです・・・。ですのでやはり、質問内容と想定質問への回答準備が重要になりますね。

通訳(Interpreter)について

審問中の判事による質問への回答を英語ですることに自信のない場合は、通訳を入れることもできます(繰り返しますが弁護士は不可)。ただし、ただ英語/日本語のできる人ではだめで、裁判所に登録している通訳者である必要があります。

書記官は、Certified interpreterでないとダメと言ってましたが、そもそもシンガポールには公認の通訳の資格のようなものはないようで、裁判所での通訳実績のある人であれば問題ないと思います。

こうした実績のある通訳者は、日本大使館に訊けば連絡先を教えてくれます(実は私の同僚はあまり英語が得意でないので、実際大使館に紹介してもらった通訳の方を雇ったのですが、めちゃくちゃ良心的で格安だったことをこっそり書いておきます)。

ついに判決(Judgement)

審問は1時間半ほどでした(諸々の待ち時間入れたら2〜3時間)。判事は事実を確認するのみです。判事の質問に対してエキサイトして回答してもいいことはありません。審問の後、原告・被告は部屋を出て、約30分後、また部屋に呼ばれて判決が言い渡されました。

我々のケースの場合、一度合意したデポジット返金額を、契約書に記載された期日までに返却しなかったオーナーに非があることが認められ、満額勝訴となりました。オーナーの主張する大理石の破損については、その破損が見つかったのが引渡し検査の後のことで(検査時には見つからなかった)、テナント(借り主)がそれを破損させた、という証拠がない以上、なんの意味もないことは当然です。

オーナーは、部屋が乱雑で汚かったとか、こちらの印象を悪くしようと適当なことを言っていましたが、それは争点ではなく、なんの意味もないのは当然です(気分はよくないですが)。

判事は、事実/契約にもとづいてきちんと判断してくれましたので、自分に契約上の非がなければ、少額訴訟を行う価値は十分あると思います。仕事しながらだとだいぶしんどいですけど。

結局、オーナーの住所がわかるのに時間がかかったため、申立から判決までまるまる2ヶ月かかりました。

裁判所命令(Order)について

判決内容の説明のあと、原告と被告はまた部屋を出て、しばらくしてから命令(Order)の書かれた紙(本件の場合、被告は○月○日までに払いなさいといった内容)をもらって終了です。

被告は不服申し立て(Appeal)する権利はあるそうですが、あきらかに意味がないのでしてこないと思われます。もし敗訴側が命令に従わない場合、強制執行や差し押さえ、ということになるそうですが、さすがにこうなると手続については弁護士に相談する必要があるかもしれません。

もしそんな事態になったら・・・また追記するかもしれません。

※追記:無事、返金用の小切手は送られてきました。

その他:CASE

シンガポールには、少額裁判所以外にも、The Consumers Association of Singapore (CASE) という政府系非営利組織もあります。

こちらは、「商品を買ったら不良品だったのに返金してくれない!」みたいな訴えを解決するためのもののようです。賃貸契約に関する紛争はこちらでは所掌外でした。ご参考まで。幸い、まだ利用したことはありません。

シンガポールで賃貸契約する場合の注意点まとめ

最後に、以上の経験から、シンガポールでマンションを賃貸する際の注意点について簡単にまとめておきます。

  1. 契約相手(オーナー)の連絡先(住所・電話番号)は必ず確認しておく。訊いても教えないというオーナーなら、その契約は見送ったほうがよい。
  2. 入居時に、部屋の状態の写真を撮り、記録に残し、エージェントからオーナー側と共有してもらう。入居時の不具合は、かならず解決しておく。
  3. 敷金の返還期限や、引渡しルールを定めた条項、借主によるダメージの補修コストの負担ルールに問題ないかきちんと確認しておく。
  4. シンガポールでは、借主側がエアコンのメンテナンス(年4回)を専門業者に依頼すること、という条項がデフォルトで入っている。これは必ず行い、業者によるメンテナンスレコードとレシートは、賃貸契約と一緒に保管しておく。
  5. 退去日と検査日の通知に関して、期限がないか確認しておく。
  6. 退去時の引渡し検査は、必ず立会い、エージェントにも同席させること。クリーニング費用の見積額はかなり高めを出してくるため、高すぎた場合、業者の見積書の提示を求め、ネゴすること(他業者から見積もりとるなど)。

最終的に、良いオーナーに当たるかは運と思いますが、賃貸契約の際は少なくとも上記は確認しておいたほうがよいです。

 

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