腕時計選びは非常に楽しいものです。
ドレスウォッチ(もしくはビジネス/オフィスウォッチ)、スポーツウォッチ、ツールウォッチなどの用途による大きな区分から始まり、それぞれの時計の「ブランド力」「歴史」「駆動方式」「機能」「デザイン」「装飾」「価格」「時計が持ち主に与えるキャラクター性」等の属性基準も入れると、時計を買って楽しむのではなく「時計選び」自体が趣味になりえるほど、奥深い世界です。
それが嵩じて、時計の構造を勉強し、時計の分解・組立てまで始めると、その奥行は更に広がると思います。
その奥深い世界で迷いに迷った挙げ句、ようやくたどり着いた出口に、月明かりに照らされたように、白くて、青くて、静かな輝きに満ちて私を待っていた時計が、これです。
ジャガー・ルクルト/マスター・ウルトラスリム・ムーン 39
Jaeger-LeCoultre / Master Ultra Thin Moon *1
とても気に入っています。
というわけで、2月に購入してまだ2ヶ月程度しか経ってませんが、あまりこの時計の情報が日本語のウェブサイトにないこともあり(でも品切れの店が多かったので人気はある模様)、詳しめに紹介(礼賛)しておきます。
- ジャガー・ルクルトというブランドについて
- 1,000時間も検査されるマスターシリーズ
- なぜ、マスター・ウルトラスリム・ムーン(ステンレス、シルバー、39mm)を選んだか
- マスター・ウルトラスリム・ムーンのレビュー
- 最後に
ジャガー・ルクルトというブランドについて
ジャガー・ルクルトは、日本では一般的な知名度はもひとつですが、時計好きなら誰もが知るスイスの名門で、数十万円から、数千万円もするような時計まで作っているマニュファクチュール・ブランドです*2
数百の発明や1,000種類以上のキャリバーの開発*3、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲ、カルティエ、IWC等へのムーブメント供給の実績から、「時計メーカーの中の時計メーカー」とも呼ばれています。
数ある製品ラインアップの中でも、反転する四角いケースの「レベルソ(Reverso)」がとくに有名で、ブランド・アイコンのようになっています。
今日、大体どんな時計にも付いている、時刻等を調整するためにくるくる回す竜頭(もしくはクラウン)は、ブランド創業者のアントワーヌ・ルクルト氏(正確には前身会社LeCoultre & Cieを創立)が、1847年に最初に開発、懐中時計で実用化し、従来の鍵によるぜんまいの巻き上げを不要にした、と言ったようなブランドの歴史を紐解いていくと、ジャガー・ルクルトの時計を持つということは、過去の様々なCoolな人々の不断の努力により発展してきた技術のすべてが、手元のごく小さなケースの中に抽象的に凝縮されて、いまそれを独占的に行使しているような超リッチな気分、もしくは、腕を動かすだけで、工芸品(アート)とも言える時計の表面から、ブランドの歴史が描かれたタペストリーが黄金色の輝きとともに伸びてはためくような妄想を味わえるという感覚が、時計ブランドのマーケティング戦略の描く、多少盛られ気味のストーリーにまんまと乗せられているわけではなく、長い歴史と確かな実績に裏打ちされたものであるから安心しても良いという事を、それほど無理しなくても信じることができます。
高級時計を買うときは必ず、自分に対してもストーリー[エクスキュース=言い訳]が必要なのです(長めが良い)。その意味で下の動画は素晴らしいです。
▼【公式ビデオ】ジャガー・ルクルトの歴史物語
ちなみに「Jaeger-LeCoultre」の日本での正式名称は「ジャガー・ルクルト」ですが、公式プロモーション・ビデオでの発音によると、「ジャジァェルクゥルト」と聞こえます。たぶん「ジャジャー」というカタカナが汚いので、日本では「ジャガー」とされたのだと思います。
英語スピーカーには「ジャガー」に近い発音をするひともいますが、YouTubeなどでは発音でよく揉めています(「Jaeger」を「ヤァガー」と呼んだら必ずツッコミが入る)。本記事では以下、海外で最もよく使われている略称「JLC」(ジェイエルシー)を使います。
1,000時間も検査されるマスターシリーズ
今回購入した時計『マスター・ウルトラスリム・ムーン』は、JLCの「マスター(Master)」と呼ばれるラインアップ中の、ムーンフェイズ時計です。
「マスター」シリーズは、1992年に、自社検査基準「1,000時間コントロール」を最初に適用されたシリーズです。
同検査基準は、ムーブメント単体ではなく、ケースに組み込まれた状態で、「歩度の正確さ、外気温、外気圧変化への耐性、耐衝撃性、耐磁性、防水性など」を長時間検査される、「ムーブメントの一部だけを試す公式クロノメーター認定検査より、はるかに厳しい」テストが行われるもので、合格したものだけが市場に出荷されます(カギ括弧内は説明書からの引用)。
なお、現在は「マスター」シリーズだけでなく、JLCのほぼすべての時計にこの検査は行われているそうです。
なぜ、マスター・ウルトラスリム・ムーン(ステンレス、シルバー、39mm)を選んだか
仕事で毎日使えるナイスな時計が欲しかったので、時計選びの条件は、以下のような感じになりました。なお、私は基本的には毎日スーツを着るサラリーマンです。これら条件は、欲しい時計の種類によっても、ひとによってもまったく異なります。こうした条件をあれこれ考えるのが、最初に述べた時計選びの楽しさです。
- ロマンを感じる為に機械式であること
- ロマンを強化する為にブランドの歴史は長い方がよい
- 自動巻き/手巻きどっちでもOK
- 但し機械はインハウス・ムーブメントであること *4
- ムーブメントの装飾はキレイな方がベターでできれば裏スケがよい*5
- 外見は控え目で落ち着いたものであること
- 三針(時針・分針・秒針)タイプであること。スモールセコンドもOK*6
- 文字板の色は、ホワイト/シルバー系であること
- アワーマーカー(時刻表示)は、数字以外のシャープなアプライドインデックスであってほしい*7
- ケース素材はステンレス
- ベルトは黒い革であること(場合によってはメタルブレスレットも可)
- 直径はできれば、35mm以上、39mm以下がよい(40mm以上は不可)
- 厚みはできれば、10mm以下であってほしい
- デイト(日付)表示機能はあってもなくても良い
- 値段は100万円以下であること
これらの条件を基本に、それぞれの重みを調整しながら探していくと、上記条件の多くがあてはまるものは(最近直径40mm以上の時計が多すぎなこともあり)、たくさんのモデルがあるロレックス、オメガ、セイコーといったようなメジャーなブランドになっていき、しかしすべての条件を満たし、かつ、デザインが気にいったものとなると、たぶんJLCと、ノモスグラスヒュッテ(以下、ノモス)しか残りませんでした。
それで、JLCの店舗に見に行って「やっぱりマスター・コントロール・デイトのシルバーかなぁ」*8なんて決めかけていたら、近くに置いてあった、マスター・ウルトラスリム・ムーンに一目惚れしたという次第です。
マスター・ウルトラスリム・ムーンのレビュー
というわけでレビュー。いかにこの時計が、ドレスウォッチとして理想的なものであるかという観点も交えて紹介します。もし購入を検討されている方、迷っている方がおられましたら、参考にするのはそこそこに、それ以上迷わずに早く買ってしまって、悦楽を味わった方が良いと思います。
搭載ムーブメントと精度
搭載されているムーブメントは、インハウスの自動巻きキャリバー「925/1」。日付表示と、ムーンフェイズ(月相)表示が付いて、ムーブメントの高さ(厚み)は4.9mm。
部品点数:246、振動数:28,800、石数:30、パワーリザーブ:43時間。
サファイアクリスタルバックから見られるムーブメントには、美しい装飾が施されています。
最も目立つ、ローターと一番受け(金色のブランド名が掘られた大きな板様の部品)にはコート・ド・ジュネーブ装飾(斜めの彫り)が施され、下の方に隠れてあまり見えない地板には、ペルラージュ装飾(重なりあった円の模様)が施されています。
特筆すべきは、2017年製造モデルより、自動巻きのローターが、18金製になったこと。ピンク(?)ゴールドがキレイで特別感を演出するだけでなく、以前の大きな扇形ローターに比べて、ロゴマークを配しつつも隙間のある軽やかなデザインになったため、ムーブメントをより鑑賞しやすくなっています。
精度については、まだ購入後2ヶ月で、いまのところ落としたり、激しく何かにぶつけたりはしていませんが、日差+5秒以内に収まっていると思います(計測器ないので大体)。
文字板とインデックス
とにかく美しいの一言。
文字板はシルバーで、非常に細かいサンレイ仕上げ。ぱっと見るだけでは、なめらかなシルバーですが、よく見ると(老眼?)、微細な放射状の線が見えます。
楔形のアワーマーカー(アプライドインデックス)には、ロジウムプレートが施されており、高級感があります。ひとつひとつが控えめな大きさなので、上品な表情を醸し出すのに一役買っています。ミニッツマーカーはプリントのようでいて、実はよく見るとちょっと、ぷくっとしています(これ素材なんですかね?)。
文字板はわずかにドーム状に膨らんでおり、ケース外側の円周部分に向かってわずかにカーブして落ち込んでいます。そのため、円周側に取り付けられた中心に向かう楔形インデックスの先端は、文字板が沈み始めるあたりで、ごくわずかに浮かんだようになっています(肉眼ではほぼ見えません。下の拡大写真では見えます)。
これを私は、湖面に反射する月光のメタファーだと解しました。精密な手作業が必要なディテールと言えましょう。
風防(文字板上のガラス)は当然、球面サファイアクリスタルで、クラシカルな雰囲気を持たせることに、デザイン上の落ち度は一切ありません(風防は一般的に、平面だとモダン、もしくはスポーティな雰囲気になり、球面だとクラシカルな雰囲気になります)。
針のデザイン
時針と分針はドーフィン型*9で、針の左右をポリッシュとブラッシュの2種類の磨き方で分けており、強い光が当たったときの視認性を高めています(上の写真)。
この針に施された細かい加工が、細めのドーフィン針自体と相まって実にシャープな印象を文字板に添えています。そのブラッシュ部分は、よく見ると白っぽく雪がきらきら光るような感じになっています(写真では灰色ですが実物はもっと白い感じに見える)。
一方、秒針は青焼き針(ブルースティール)で*10、光の当たり方により、暗い紺色から、きらっと輝く「青銀」(折り紙の青い銀色みたいな色)にまで変化します。
その青針はめちゃくちゃ細く(0.1mmくらい?!)、文字板表面の外周への落ち込みカーブに合わせて、針の先端はわずかに曲げられています。これは高級ドレスウォッチの基本条件みたいなものですかね。
ムーンフェイズ
6時位置のサブダイヤルに位置するムーンフェイズ(月の相[新月~満月~新月~満月]を知ることができる機能)は、夜空のディスクが、秒針の色とマッチした、上品なネイビーブルーで、月と星は鏡面加工のシルバーです。
サブダイヤル下部の白い部分は、超細かい、光の当たりを調整しながらよく見ないと肉眼では見えないような(老眼?)、ギョーシェ彫りが施されています。こういうほとんど見えない部分へのこだわりはさすがです(サブダイヤルへのギョーシェ彫りは定番ではありますが)。
(高級時計に見られる)月に顔(こんなん→😒)は描かれておらず、満月時に月が中央に表示されるときは、まるで神社に祀られる神鏡のようで、銀色の文字板の表情に、神秘的な輝きと静謐な雰囲気を纏わせます(上の写真ではその輝きを全然捉えていないのが残念)。
超高級ムーンフェイズ時計では、月や星も貴金属のアプライドだったり、ものすごい数の星が手作業で描かれたりしますが、この時計は(価格帯的に)そうではなく、星はシンプルな五芒星です(数はたぶん全部で10か12)。
ムーンフェイズ自体は、現代にあってはほとんど実用性はないですが、見た目が単純にCool、それか「パンク精神」「阪神タイガース」「売れない前衛ミュージシャン」「生産性がなく無意味とされるもの」等、陰なるものへの愛着、それだけあれば十分に愛でることができます。
また、曇り空で月が全く見えないときに、時計を見て自分だけ今は満月だとわかると、「自分だけが知る、彼女の姿」みたいな、、、キモくなってきたのでやめておきます。
デイト表示
ムーンフェイズの円周部分には、デイト(日付)表示ディスクがあります。このディスクは、エナメルっぽいてかてかした白色で、明るいシルバーの盤面上に、月夜との境界線を明白に描き出しています。
このディスク自体は回転しないので、構造的には日付は文字板上のペイントでもよいわけですが、わざわざ文字板から一段下がって配置されていて、高級感を漂わせています。ムーンフェイズの夜空部分と合わせて、3層が重なった立体感を楽しめます。
日付は針で指し示されるポインター・デイト式。3時位置に日付窓がないため、全体の対称性の維持に貢献しています。
ただし、日付の文字が小さいので、老眼になれば日付を読み取ることはかなり難しいでしょう(すでに老眼?)。日付を1~31まで書くと細かすぎるので、一日置きの記載になっていますが、それでも小さいです。日付がパッと見てとわからないとイヤだ! という人には合わないと思います。
ともあれ、上述した文字板のディテールがそれぞれ、実にうまく調和しています。
銀色の文字板の上をなめらかに滑る青い秒針を見つめていると、冬のスイス・ジュー渓谷の雪に包まれたJLCの工房(BGMはチクタク音)、もしくは、日々の喧騒から遠く離れた白銀の景色(シンガポールは年中暑いので憧れる)が脳裏に浮かび、心に落ち着きを与えてくれます。
ケース
卓越したケースデザインが、この時計を格別にエレガントなものにしています。実際、一目惚れしたのは(アンド、最後の決め手となったのは)、文字板の美しさもさることながら、ケースデザインによるところが大きいです。
デザインの前に、基本的スペック。直径は39mmで、厚みは9.9mm。
日付とムーンフェイズが付いて、9.9mmということで、"Ultra Thin"(ウルトラスリム)の称号を冠しているのだと思います。シャツのカフから半分だけさりげなく覗いたときのセクシーさが重要なドレスウォッチにおいては、1cm以下というのは大きなメリットです。1.3cmとか1.5cmになると、カフにシュラシュラ収まりにくいです。
ちなみに、同じくウルトラスリムのデイトのみバージョンは、わずか7.45mmです。もし直径が40mmもなく、35~37mmだったらあっちを買っていたかもしれません。個人的には、ああいう時計こそ小さめのクラシカルなサイズ感で出して欲しいものです。
詩的なまでに美しいケースデザイン
この時計のケースの凄さは、その凝った作りにあります。
一見すると(上から見ると)、極めて普通の丸型ケースで、ベゼルが少し細めかなというくらいです。しかし横から見ると、実に凝ったデザインになっているのがよくわかります(下の写真御参照)。
- ベゼルの鏡面仕上げのラインが、細・太・細の3段になっています(上写真)。これは、時計をよりスリムに見せる効果があります。そしてなによりも美しいのが、中央の太い鏡面のラインが、細い鏡面のラインに異なる角度で挟まれているために、中央の鏡面に映る光景が、どこか光の溢れる水面(みなも)に映っているように見えるところです。これがとても素晴らしい。月光といえば水面。水面といえば月光、そんなポエジーまでも連想させる素晴らしいデザインです。
- ベゼルだけでなく、緩やかなカーブを描くラグの蔓のような鏡面仕上げも、エレガント極まりない表情を見せています。
- そして、ラグの間に見えるケースの側面側が、上述のベゼルの鏡面ラインとまたもや微妙に異なる角度で背面へと続いています。
- このように、ケースは、詩的なまでに美しい光の共演を生み出す複雑な構造になっていますが、時計を真横から見ると、ぴしっと何本か線が通っており、どこまでグッド・デザインやねん、という感じです(下の写真御参照)。
このケースデザインの素晴らしさは、実物を見ないことには伝わらないものです(公式ホームページの商品画像ではぜんぜんわかりません)。
操作性
時刻合わせは、3時位置の竜頭(クラウン)を引き出して行います。もちろん秒停止機能付(ハック機能)です。
日付とムーンフェイズは、それぞれ4時位置と8時位置にあるコレクター(プッシュボタン)を押して調整できます(1プッシュで1日/1フェイズ進む)。ボタンは、時計に同梱されている、コレクターツールという先端がプラスチックで持ち手が金属の棒で押します。爪楊枝で代用可能。
ベルトとバックル
ベルトは、やや艷やかな黒のアリゲーター製で、時計の薄さと実にマッチしています。なお、ラグ幅はやや大きめの21mmで、薄型だからと言って、全体の印象が華奢になりすぎないデザインと言えます。
バックル(留め金)は、高級感のある、観音開き型のディプロヤント・バックル(Dバックル)。ここにもケースデザインのフィロソフィーは活きていて、写真の通り、曲線と直線の使い方や、美錠両サイドの面取りの仕方が、実にエレガントです。
また、JLというロゴマークの見せ方が、購入を迷ったマスター・コントロール・デイトの美錠に比べて、浮き彫り風の凝った作りになっているのが心憎いです。
Dバックルは、
- 腕に着けやすい
- 着脱時のベルトへのダメージが少ない(皺がいきにくい)
- 着脱時に落としにくい
などのメリットがあります。個人的には、3番目のメリットが最も大きいと感じています。
装着性
上記の通り、薄型ですのでドレスシャツの袖口にきちんと収まり、何の問題もありません。また、革ベルトなので軽いです(重量は約50 g)。
写真だと時計が大きく見えることはさしおいても、39 mmはちょっと私の細腕にはやや大きめですね。
個人的には、直径が36 mmか37 mmだったら完璧だったと思っています。39 mmというのは私の許容範囲ぎりぎり(真上から見てラグの両先端がいい感じで腕の幅より小さく収まる)の大きさで、これが、ちょっとだけ妥協した部分です(将来的に35~37 mmの二針ドレスウォッチを買うための言い訳)。
ちなみに、34 mmサイズのモデルもあるのですが、実物を見たらやはりかなり小さく感じたのと、月が金色になっており、シルバーで統一された39 mmの方が好みでした。ケースが39 mm ホワイトゴールドで、文字盤がグレーのものも渋かったですが、値段が高すぎです。
服装/シチュエーションへの適応性
ステンレス製であり、スーツを着る仕事なら、毎日付けても問題ないドレスウォッチです(ただし長袖シャツ着用時限定)。
小洒落たムーンフェイズが、時計の堅すぎる印象を和らげているところもあり、結婚式やビジネス懇親会、パーティなどの華やかな場にもぴったりです。
タキシードを着ないといけないような晩餐会などでは、腕時計は薄型二針(秒針なし)が望ましいという説もありますが、そうした場でも問題ないでしょう。
ただ、カジュアルすぎる服装にはまったく合わないため、エブリディ・ウォッチというわけにはいきません。Tシャツ姿でこれを付けていたらダサいです。
ただし、ジャケットやセーターを着る冬場のきれいめカジュアルなら問題ないでしょう。革ベルということもあり、夏場の休日には出番がない感じですね。
マスター・コントロール・デイトなら、アラビア数字や広めのベゼル、よりロバストなケース形状のおかげで、ジーンズ&スニーカーでも問題なさそうですが、このウルトラスリム・ムーンの場合は、カジュアルの場合きれいめファッションにしか合わないでしょう。
防水性
防水性は5気圧(50 m防水)。説明書には「短時間の水泳、プールの縁からの飛び込みにはご使用いただけます」とか「海中での使用後は、真水ですすいでください」などと、標準的なテキストがそのまま使われています。
この時計でそんなことはまずしないでしょうが、ドレスウォッチは30 m防水が多いことを考えると、ちょっとした安心感がプラスされています。
耐久性
まだなんとも言えませんが、機械式時計である以上、耐久性は高いとは言えないでしょう。経年変化もどうなるかわかりませんが、クラシカルな見た目なので、ある意味楽しみではあります。
また、ブレスレットに比べると、Dバックル付とはいえ、革ベルトの交換も必要になってくると思います。たしか純正アリゲーターは5~6万円もする。
店で訊いたときにメモしておくのを忘れましたが、メンテナンス費用は、新品同様のぴかぴかになる(?)研磨込みのコンプリートサービスで、デイトモデルと同じ約8万円(ムーンフェイズだから高いかもとびびってたので良かった)。
研磨なしなら3万円(5万円? 忘れた)でした。もちろん竜頭の交換等が必要なら部品代が追加されます。お店の人からは、通常使用ではオーバーホール(分解、掃除、部品洗浄・交換等のメンテナンス)は、5年に1回くらいでお願いします、と言われました。
価格について
ここ10~20年の高級時計の急激な価格上昇のご多分に漏れず、めちゃくちゃ高いです。日本での2018年4月現在の定価は、1,015,000円(8%税込)。
シンガポールでの定価は、13,700シンガポールドル(7%税込)で、いまのレートだと112万円くらいになってしまうため、日本で購入しました。
ちなみに、ロレックスの時計のようなリセールバリューは到底期待できません。
よって、この時計を購入するということは、投資でもなんでもなく、ただの自己満足のための悲しくも美しい、一度きりの人生における妄想ツールを得るための、有益な無駄遣いとなります。
なお、JLCは、基本的には「永久修理」対応してくれるメーカーのはずなので、この時計は一生モノどころか、次世代に受け継いでいける可能性は十分あります。2世代が生涯で身につける日数で値段を日割りすると、安いと言えるかもしれません(冗談です)。
最後に
マスター・ウルトラスリム・ムーンは、伝統的なデザインと、現代風で都会的な(?)ミニマリスティックなデザインが融合した美しい時計です。
現代のビジネスマンにとって、理想的なドレスウォッチのひとつと言えるのではないでしょうか。
また、JLCの傑作のひとつとして将来、ブランド・アイコン的な時計になるのではないかとも考えています(願望まじり。でも220ページ以上あるゴージャスな2016/2017版カタログの「Master」シリーズの扉にはこの時計の写真が使われています)。
以上。この時計の購入を検討している方のご参考になれば幸いです。
おまけ:時計選びにおすすめの情報源
時計選びにおいては、実物を見ることがベストにしても、わざわざ店に何度も足を運ぶのも大変です。そこでやはりYouTubeでのリサーチが便利です。
たくさんある時計関係のチャンネルの中でとくに私が好きなのは、イギリスの中古時計屋さん「Watchfinder & Co.」が様々な時計を紹介するチャンネルです。
単なる売りたい中古時計の紹介ではなく、定番からレアなものまで、めちゃくちゃ時計に詳しい兄ちゃんが、毎回おもしろい視点でレビューしてくれるのでとても勉強になります。映像もキレイですし、選ばれる時計がこれまたいちいち超渋いです。
下のビデオでは、マスター・ウルトラスリム・ムーンが出てきます。
実は最初に出てくるノモス「Club」のバージョン違い(Club Campus)も持ってるので、2つカブるってことはなんとなく「JLCを買う自分の決断に間違いはない」的な感じがして、背中を押されたような気がしました(そして今すでにランゲ&ゾーネが欲しくなっているという罪づくりな動画でもある)。
実に良くできたビデオなので、是非見てみてください。2,000ポンドと8,000ポンドと80,000ポンド(1,200万円!)の時計ってなにが違うねん? という比較動画です。
ただ、この店は中古品を扱っているため、映像に出てくるマスター・ウルトラスリム・ムーンは、文字盤や機械にホコリのようなごみの混入が目立ち、テンプの動きも芯がずれているように見えます。新品はそんなことないのでご安心ください。
*1:英文商品名はウルトラスリムではなくUltra Thin
*2:時計業界での「マニュファクチュール」とは、時計の外装デザインからムーブメントまで、自社で一貫生産しているという意味です。ムーブメントは他社からの供給を受けて、自社デザインの時計を製造するメーカーは「エタブリスール」と呼ばれます。
*4:インハウスとは時計の機械を自社で設計・製造していることを言います。他社製造の汎用の機械を搭載した機械式時計は、インハウスに比べて通常は安価になります。インハウスの方がロマンはありますが、汎用機械にもメンテナンス費用が低い等のメリットはありますし、汎用機械をベースにめちゃくちゃ改良して使うメーカーなどいろいろあります。
*5:裏スケとは裏がスケルトンの略で、時計ケースの背面に透明ガラスがはめ込まれており、中の機械を鑑賞できる構造のことです。シースルーバック、クリスタルバックなどとも呼ばれます
*6:スモールセコンドとは、秒針が他の針と同じ中央の位置ではなく、文字板の中(6時位置など)に別に配置されたもの
*7:アプライドインデックスとは、アワーマーカーが、文字板上の印刷や塗装ではなく、別に作られて文字板上に固定されたもの。文字板に立体的表情(わかりやすい高級感も!)を付与できる
*8:JLCの最もシンプルな三針デイト・モデル
*9:とんがった二等辺三角形のような形
*10:青焼き針とは、ステンレスを焼いたときの酸化皮膜の色変化を利用し、針が青い色になるよう手作業で調整したもの。ムーブメントのネジにも青焼きのネジが使われています