マテリアライズド

ビジネス英語、シンガポール、好きな音楽、時計、読んだ本など

MENU

ジャズが聴こえてきそうな時計:ハミルトン『Ross』ヴィンテージ・レビュー

おっさんになると腕時計コレクションに少なくともひとつは、ゴールドライタンみたいな角型時計が欲しくなるものです。

個人的に角型時計はカルティエのTank Louis Cartier(タンク・ルイ・カーティエ)がデザイン的に至高だと信じて疑わないのですが、現行モデルはどう考えてもぼったくりに近い価格(170万円くらい?)です。さらに、いくらケースがゴールドとはいえ、クォーツで110万円はやりすぎ(それでいまカルティエのサイト見たのですが、もしかして手巻きのタンク・ルイって現行コレクションから消えました?!)。

というわけで、タンク・ルイは人気があってヴィンテージも割と高めで買えない、ジャガー・ルクルトのレベルソは個人的に腕に乗せたときにどうもあまりケースの形状が好きになれない、というわけで、いにしえのロマンあふれる角型時計を求めて、世界最大級の時計販売サイト『Chrono 24』のヴィンテージ沼に飛び込んでみました。

そこで一目惚れして購入したのがこちら。

 
 
 
View this post on Instagram

Purchased a Hamilton Ross from 1940 in 2020. #watch #hamiltonwatch #腕時計 #ハミルトン #vintagewatch

A post shared by Yusuke Tanaka (@yskta) on

***

アメリカの老舗時計メーカー、ハミルトン(Hamilton)の『Ross』です。

購入価格は、US$350(約4万円)というお手頃価格。2019年末に分解掃除と調整がされており、コンディションもなかなかのものです。

角型時計の隠れた名作とも言えそうな『Ross(ロス)』の日本語の情報が、ほぼオンラインにないようなので、ここでレビューしておきます。

 

ハミルトンについて

ハミルトンは1870年代、アメリカ・ペンシルヴァニア州で、中小の時計会社が合併することにより始まった時計メーカーで、鉄道時計や『Khaki(カーキ)』などの軍用腕時計で有名です。現在はスイスのスウォッチ・グループの傘下。*1

ほかにも世界で初めての電池式腕時計で、エルヴィス・プレスリーの腕元を飾ったことでも有名な『Ventura(ヴェンチュラ)』、世界初の自動巻きクロノグラフ・キャリバーの開発、1970年に世界で初めてLEDを採用したデジタル時計『Pulsar』(2020年に復刻)を発売するなど、押しも押されぬ名門時計メーカーです。

そんなハミルトンは紛れもないインハウス・ウォッチ・メーカーだったようです。

1947年の宣伝ビデオ『What Makes a Fine Watch Fine?』において、貴重な当時のランカスター工場の様子を見ることができます。


What makes a fine watch fine? (1947) | Hamilton Watch

この映像によると、自社で開発した精密加工機でネジなどの部品を作るだけでなく、髪の毛の太さの5分の1のヘアスプリングは自社で精錬した合金で製作、軸受用のルビーやサファイアも自社製造、潤滑油まで自社のラボで精製、二回検査に検査員の検査まで、ここまで社内でやっている時計メーカーは、現代ではハミルトン自体も含め、もはやほぼないと思われます。

ナレーションのおっさん「Fine」何回言うねん! とツッコミたくなりますが、ここまでやっていたからこそ、80年経ったいまでも正確な時を刻むのだと思うと感慨深いものがあります。そしてクォーツ・ショックにより、こうした仕事の大半は失われたのでしょう。

Ross(ロス)のレビュー

ハミルトンというとどうしても『Khaki』を代表とするミリタリー・ウォッチのイメージが強いですが、実は戦前にはドレス・ウォッチ(とくに角型が多い?)も作っていたようで、この『Ross』はその中のひとつです。

とくに当時は、女性にプレゼントする高級時計としても人気だったようで、黒い紐や、ダイヤ入りの細いブレスレットで腕に着ける超小型の腕時計もありました(画像で検索すると1930年代の信じられないくらいエレガントな時計が見つかります。服も時計も超かっこよかった時代ということでしょう)。

ハミルトン・コレクターの方のサイトによると、『Ross』は、1939〜1946年の間に、いくつかのバリーションで製作・販売されていたようです。*2

次に見るように、搭載ムーブメントから私のものは1940年代のものとわかりました。

搭載ムーブメント『Calibre 982』

搭載されているムーブメントは、ハミルトンの完全自社製キャリバー『982』です。

f:id:yskta:20200607180514p:plain

スモールセコンド付きの手巻き式。秒針ハック機能なし。

W18.7 x L24.2 x H3.4mm。19石。18,000振動。パワーリザーブ48時間。

Nothing fancyですが、非常にロバストな機械として有名とのこと。

当時としては十分に薄く小さい機械で、ケースにぎりぎりで入るような大きさです。小さい時計が好きな私としては、非常に好感がもてます。

2019年12月に分解整備済みで、いまのところ日常使用にも十分な精度が出ています。自分も両親もまだ産まれていない、祖父が太平洋戦争に出征する少し前という大昔、80年も前の時計が、2020年の今も一生懸命動いているのを見ると実に愛着が湧きます。

14金ゴールド・フィルドのケース

ケースサイズは、幅23 mm x 長さ37 mm(ラグ込み)と、現代の紳士向け時計と比べると、かなり小ぶりです。女性ものかと思われるでしょう。

しかし上記ビデオにもある通り、クールなファッション文化が花開いた1930年代、ごっついアメリカ人もこういう大きさの時計をしていました。

ケース素材は、14金の『ゴールド・フィルド(gold filled)』です。

f:id:yskta:20200607184918j:plain

ゴールド・フィルドとは、金張りとも言われるもので、製品総重量の1/20のソリッドゴールドをベースメタルに分厚い層として圧着させたもので、極薄の被膜である金メッキと比べて、見た目が完全にゴールドかつ、経年で金メッキのように剥がれて地金が見えてしまうことはないそうです。*3

というわけでこの80年前の時計も実にキレイな輝きを保っています。

f:id:yskta:20200607192833j:plain

独特な形状のラグと、かなり湾曲したガラスとケースが、完全にヴィンテージドな魅力を放っています。小さい時計ですが竜頭は大きく、非常に巻きやすいです。

時代を感じる凝った作りの文字盤

アール・デコ調で、ダンディーな顔立ちをしています。

f:id:yskta:20200607192644j:plain

文字盤はアイボリーのように見えますが、実際はシルバーとアイボリーが混ざったようなやや金属感のある質感。アラビック数字はゴールドの植字(アプライド数字)で、ロマン感のあるフォントが魅力的です。

スモールセコンドの部分は、文字盤が湾曲しているため、中の機械の平面に合わせて、へっこんでいます。針の形状もドーフィンかと思わせて、根本がわずかに絞ってあり、ソードタイプのように見えます。

上に述べたような特徴は、時計自体のサイズが小さいこともあり、近くでじっくり見てようやくわかるもので、ぱっと見は全然わかりません。

当時の定価は52.5ドルで、1940年代のコカ・コーラが5セントだったことから価値を推測すると、だいたい10万円強くらいでしょうか。80年前の時計としては結構な高級時計だったでしょうが、実に凝った作りです。

ちなみに、針などに少し腐食が見られます。酸化も「パティナ」(もとは緑青の意)などと言って魅力のひとつではありますが、この時計の場合は小さすぎて、身につけると私の目に腐食部分はほとんど見えません。

ストラップは新調予定

ストラップは当然オリジナルではなく、豚革の茶色のものが付いています(残念ながら尾錠は金メッキの非オリジナル)。買い物できるようになったら、もうちょっと濃い目の茶色のカーフスキンに変える予定。

服装/シチュエーション適応性

小さめのゴールド・ウォッチということで、茶色の靴を履いたスーツスタイルには間違いなく合います。

しかしそれよりも崩して、白のリネン・シャツに明るめブルーのアンコン・ジャケットを羽織いつつ、こんな古い時計をさらりと着けたらかなりのおしゃれと言えましょう。靴は茶色のコインローファーで。スニーカーは絶対に合わない。

こういう角型で金色の時計は、どちらかと言うときれいめのファッションの方が合うと思います。

 

最後に

カルティエのタンク・ルイの代わりとして購入したものですが、期待以上にかっこよくて気に入っています。

f:id:yskta:20200607202753j:plain

「時計の良さは値段ではない」

ヴィンテージ時計を買うとそれがよくわかります。

この時計を着けたときに感じる「嗚呼・・・デューク・エリントンとかセロニアス・モンクはこんな腕時計を着けながらピアノを弾いてたんかなー。ポロリン♪」なんて妄想をすることで感じることのできる幸福感は、新品で150万円以上する手巻きのタンク・ルイを購入して「嗚呼・・・アンディ・ウォーホルの審美眼にかなう美しい時計が我が腕に」なんて想像して楽しめる感覚とそう大差ない(はず)です。

ちなみにハミルトンは『Jazz Master』という時計シリーズも出していますが、そのデザインからあまりジャズは聴こえてきません。『Ross』の方が圧倒的にジャジーです。

というわけで、最近の時計にはない、小さめで優れたデザインがたくさんあるヴィンテージ時計の世界にハマってしまいそうです。

ただ、数十年前の時計は防水性がほぼないと言っても良いものが多いです。この時計も裏からパカッとケースを外せるのですが、パッキンもなく、たぶん水をかぶれば高い確率で浸水すると思います。その点も含め、大事に扱っていきたいと思います。

この『Ross』は『Chrono24』にもたまに出てくると思いますので、気になる方は検索してみてください。

www.chrono24.com

いま『ebay』を見たら結構『Ross』が出てましたが、青とか赤の文字盤は、オリジナルではなくリストアもの(文字盤の補修として後で塗ったもの)と思われますのでご注意ください。青いの結構キレイですけどね。

▽この記事はこのアルバムを聴きながら書きました。

Monk's Dream -Sacd/Ltd-

Monk's Dream -Sacd/Ltd-

 
Copyright © MATERIALIZED All Rights Reserved.