今回は、平日の仕事以外のオフの日に愛用している時計を紹介します。
ノモスのクラブ キャンパス 36mmです。
ノモス グラスヒュッテというブランドについて
ノモス グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)は、ドイツ・ザクセン州ドレスデン近郊の街でありドイツ時計産業の中心地、グラスヒュッテ*1に本拠を構える時計マニュファクチュール(時計を自社で設計・製造する会社)です。*2
時計メーカーとしては新興で、創業は1992年。
いわゆるバウハウス系の、無駄な要素を排除したシンプルな時計で有名です。
なかでも、創業時に発売され、現在も様々なバリエーション(自動巻きや日付表示付等)も含めて販売されている『タンジェント(Tangent)』が、ブランド・アイコンとして有名です。無断のない直線だけで構成されたケースがかっこいいです。
創業当初は、社外製ムーブメントを使用していましたが、社外供給に頼らない体制を構築すべく、多額の(?)投資をして「2005年にムーブメントの自社開発に成功、コート・ド・ジュネーブ仕上げを施したムーブメント搭載のモデルを出荷」しはじめました。*3
ノモスは、時計ブランドとしては比較的安価、というかコストパフォーマンスの良い数々の時計で有名でした。
とくに、時計選びの条件が、
シンプルな三針(デイト表示なしで良い)
直径34~36mmというクラシカルな小さめサイズ
インハウス・ムーブメント
かつ比較的低価格
となると、ほぼノモスしか選択肢がないんじゃないかと思えるくらいです(セイコーはもっと小さいの出して欲しい)。
しかし最近では、自社製の青いヒゲぜんまい(これを自社で作れるメーカーは少数と言われている)付きの脱進機構「ノモス スウィングシステム」を備えた薄型自動巻きムーブメントを搭載した時計や、貴金属ケースでめちゃくちゃ凝った機械の時計を投入したりして、10万円代のエントリーレベルから、200万円くらいのハイエンドな時計まで、商品ラインナップを増やしています。
以前は、高品質で比較的安価な時計(それもほとんど35mmサイズ!)を堅実に提供するメーカーというイメージでしたが、いまでは、独自開発の先進的なムーブメントも搭載して、ほかの老舗高級時計ブランドの牙城に挑もうとしているようにさえ見えます。
「クラブ」シリーズについて
「クラブ(Club)」は、ノモスのラインナップ中、最も安価なシリーズです。
デザインは他と比べて少し異色です。ほかの時計がシンプル、いわゆる無駄を削ぎ落としたミニマルなデザインで、線が細めのドレスウォッチ寄りの時計が多い中、クラブは、太めのベゼルを持つロバストなケースが、スポーティな印象を与える時計となっています。
最初に出たベーシックなモデル(Ref. 701)の、2018年5月現在の日本での定価は、175,000円(+税)です。*4
この「クラブ」のコンセプトはたしか、「親のすねをまだかじっているが、クラブ通いが好きで、おしゃれだけは忘れない若者向け」みたいなものでしたが(記憶あいまい)、いまはそういう表記は公式ウェブサイトから消えている模様。
現在は、初めての機械式時計、ノモス時計への入門用としての位置づけのようです。
とくに2017年に発売された「クラブ キャンパス(Club Campus)」は、その名が示す通り、「卒業して社会人になる子供への親からのプレゼント」として選ばれることを狙っているようです(もちろん、卒業プレゼントとしてもらっても、長期間に渡って人生をともにしていける時計として)。
そのため、ケースの裏面には、卒業のお祝いメッセージ等を無料で刻印してくれるサービスもオンラインストアで提供されています。
上写真の広いスペースにエングレーヴィングできるそうです。無料サービスはテキストのみと思います。
一方、入門用としてのクラブだけでなく、デイト表示付きの自動巻き「クラブ オートマティックデイト」(38mm)、200m防水の「クラブ アクア」(37mm)、直径41.5mmもある大きなものまで、機能やサイズ面でやたらといろいろ取り揃えられています。
なぜ『クラブ キャンパス 36mm』を選んだか
週末などのオフの日に、カジュアルな服装から、若干小奇麗な格好でも気軽に使える時計が欲しい、ということで、条件を以下に設定しました。
- ロマンを感じるられる為に機械式であること
- 休みの日しか着けないのでノンデイト(日付表示なし)がベター
- できればインハウス・ムーブメント
- 三針(時針・分針・秒針)タイプであること。スモールセコンドもOK
- 文字板の色は、何色でもよい
- 最低100m防水。だが回転ベゼル付きのダイバーズ時計ではない
- ケース素材はステンレス
- ベルトは革でもメタル・ブレスレットでも良い
- 直径はできれば、35mm~37mmが良い
- 厚みはできれば、10mm以下であってほしい
- 上記条件をできるだけ満たしつつ値段はできるだけ安い方がよい
以上をまとめると「週末用なので、付ける時にわざわざ日付を合わせなくて良いよう、ノンデイトのシンプルで小さめの時計、だが防水性能も結構あるかっちりした感じ、でもウン十万もするのはイヤ」ということになります。
この条件でいろいろ探しました。
が、仕事用の時計選びのときと同様、結局、ラインナップの豊富なロレックスやグランドセイコーの機械式が候補になってくるのですが、いかんせん値段が高すぎ。
かといってセイコー・メカニカル/プレサージュ等の機械式も大きめのサイズが多く、最終的に、値段が安くて36mm、かつ薄型手巻きノンデイトの「ノモス クラブ」、なかでも、カリフォルニア・ダイヤル(後述)数字にピンクの縁取りがおしゃれな「クラブ キャンパス 36」を選びました。
クラブ キャンパス 36のレビュー
というわけでレビュー。ノモスに限ったことではないですが、同じシリーズでも微妙に異なるものが多いため、クラブをどれにしようか迷っている方の参考になれば幸いです。
搭載ムーブメントと精度
搭載されているムーブメントは、自社製の手巻きキャリバー「アルファ」。
直径23.3mmで、高さ(厚み)はわずか2.6mm(薄い!)。パワーリザーブは43時間。ストップ・セコンド機能付き。石数:17。
このムーブメントにはきれいな装飾が施されていますが、残念ながら私の購入したクラブ キャンパスは、スチールバックなので、中を見ることができません。
少しお金を多く出せば、クリスタルバックから、グラスヒュッテ4分の3プレートのコート・ド・ジュネーブ仕上げや、青焼きネジが美しいムーブメントを鑑賞できます。
精度については、本当に週末しか使ってないので、あまり参考にならないと思いますが、日差+8秒以内は維持していると思います。
ただ、以前所有していた、同じくアルファを搭載した「オリオン(Orion)」は、2年くらいの使用で、一週間で5分(+40秒/日くらい)も進むようになっていました(遅れないだけマシ?)。何度か床に落として、メンテナンスもしてなかったのでアンフェアですが。
公式ウェブサイトでは「非常に高精度です。ノモスの時計はほぼクロノメーター認定のものを上回る精度を持っています」と書かれています。
文字板とインデックス
文字盤は、亜鉛メッキ加工のシルバーがかったアイボリーで落ち着いた色味です。
ノモスが「バイリンガルなカリフォルニア・ダイヤル」と呼んでいる、アラビア数字とローマ数字が混ざったアワー表示が独特です。
アラビア数字だけならちょっとパイロット・ウォッチっぽいマスキュリンな雰囲気になるところを、はたまた、ローマ数字だけならドレス・ウォッチっぽい上品な雰囲気になるところを、それぞれ微妙に外してくるお茶目(チャーミング)さが気に入っています。
さらにこの36mmバージョンは、灰色のスーパールミノヴァ(青く光る夜光塗料)が施された数字が、ピンク色っぽい線で縁取りされているので、そのチャーミングさに拍車がかかっています。この時計をふと見ると、その可愛さに思わず笑顔がこぼれたり、こぼれたような気がします。
このピンクっぽい色が女性向きっぽいと思われるかもしれません。実際、ノモスの公式サイトでも、38mmは男性モデルが身につけ、36mmは女性モデルが着用した写真が使われています(でも女性用とは書いていません)。
しかし、このピンクは男性でも全然OKです。ピンクの36mmを選んだ理由は後述します。
セコンド表示は外周に小さく5秒単位で60まで記載されており、ツールウォッチっぽい雰囲気もあります。ですがその数字もぱっと見では見えないくらい小さいので、マスキュリンになりすぎない、ノモスらしい、よく考えられたバランスの良いデザインだと思います。
風防は、時計全体のデザイン的にフラットかと思いきや、ドーム型のサファイアクリスタルで、光の反射を抑えて視認性を向上しつつも、ぱっと見の柔和な印象の向上に一役買っています。
針のデザイン
時針と分針は、ロジウムプレートされたバトン針。針の真ん中に白のスーパールミノヴァ(青く光る)が施されています。よって視認性は抜群です。
そしてスモールセコンドの秒針は、蛍光オレンジとなっているのが小気味よいです。もしこれが白とか銀色の針だったら、この時計のチャーミングな雰囲気は随分と減退していたと思います。
ケース
全体的に丸みを帯びていますが、ノモスのほかの時計にはないロバストな雰囲気がいい感じです。
厚さは8.17mmと、手巻きではありますが十分薄型と言えます。
クラブの特徴のひとつに、とても長い、猫の牙みたいなラグが挙げられます(オリオンのラグも長かったですが)。ラグ幅は18mm。
ラグが長いと、小さめの時計でも腕に占める時計の割合が大きくなるので、文字盤自体が大きく見えます。これはメリットでもあればデメリットでもあります。
例えば、36mmだとちょっと時計が小さすぎる、もうちょいインパクトが欲しいと感じる人が、「38mmにしたら、ラグが長すぎて腕の幅を越えてしまった。もうすこしラグが短ければぴったりだったのに・・・」みたいな。
私は38mmも試着しましたが、時計の大きさ的には許容範囲でしたが、やはりラグが長すぎました。ちょっと腕を傾けると、尖ったラグが腕の向こう側に飛び出てしまうことが多かったです。時計の着用時のバランスをとくに気にするひとには大きな問題です。
幸いクラブは、36mm、37mm、38mm、40mm、41.5mmと、やたらと小刻みなサイズ展開をしていますので、自分の趣味、腕の太さで選べます。ただし、36mm以外は、新型ムーブメントを搭載しているため、値段は36mmの倍以上になります。
操作性
ノンデイトなので操作は時刻合わせのみ。竜頭(クラウン)は結構大きめで扱いやすいです。やや褒め過ぎかもしれませんが、竜頭はもう少しでデザインのバランスが崩れるぎりぎりのラインの大きさだと思います。
ベルトとバックル
ベルトがまたいいです。ライトグレーのベロア製。
ほかのクラブが茶系のベルトが多い中(クラブ アクアを除く)、この36mmのキャンパスだけライトグレーのベロアです。オシャレ度高いです。結構分厚くてしっかりしています。
ベルトの留め具は、丸みを帯びたデザインのピンバックル。「NOMOS」と刻印されています。
服装/シチュエーションへの適応性
カジュアルな服装での親和性は最高、というかそのための時計です。
半袖シャツでも長袖シャツ、短パン、ジーンズなんでも合うと思います。
私がこの36mmを選んだ理由は、常夏のシンガポールの服装ではいつでも使えると思ったことに加え、アワー表示のピンクの縁取りが、どこか時計にあたたかい雰囲気も与えているために、日本の冬場にセーターなんか着るときでも合うんじゃないかと思ったからです(ネイビーのコートの袖からちらりと見えるピンクっぽい文字盤とかいい感じに違いない。自己満足ですので悪しからず)。
37mmという絶妙なサイズで、200m防水の高機能バージョン、クラブ アクアも気になりましたが、あちらは完全に夏バージョンという感じです。
公式ウェブサイトでは「仕事の打合せでも見栄え良し」みたいな表現がありますが、スーツに白シャツ、ネクタイではあまり合わないと思います。ネクタイなしのクールビズ・ファッションなど、ちょっとだけドレスダウンした服装ではOKです。
で、いま気づきましたが、ノモス英語版ウェブサイトにあるクラブのキャッチコピーの中の「A watch without airs and graces~」が、日本語サイトでは「without」を無視して直訳気味に「優雅さと軽やかさを備えた時計」とされていますが、これは正しくは「威張ったところのない時計/かっこつけない時計/イキった感がない時計」という意味です。
まったく押しの強くないシンプルな時計で、ちょっと柔らかな色調の文字板にピンクっぽいアワー表示と昔風のフォントだからでしょうか、女性受けは結構良いです。
防水性
100m防水(10ATM)です。竜頭はねじ込み式ではありませんが、プールでの水泳くらいなら多分問題ないと思います(ベルトはNATOベルトなどに付け替えて)。
ノモス公式ウェブサイトの「よくある質問」には以下の回答があります。
時計の裏蓋に「20ATM」と表示されていればダイビングが可能です。「water resistant to 200 meters」の表示も同じ意味です。「10ATM」の表示であれば水泳やシュノーケリングが可能です。「5ATM」の場合は時計を着けたままシャワーが可能です。
2019年1月6日追記
すでにストラップをNATOベルトに替えて、何度かプールで使ってみましたが、まったく問題ありませんでした。
耐久性
ケースは頑丈そうではあります。アルファは結構衝撃に弱いとどこかで読んだ気がするので、気をつけたいところです。実際、前述の通り、オリオンは結構早く精度が落ちました。
価格について
インハウス(自社設計・製作)ムーブメント搭載の100m防水時計で、上述の文字板の完成度、かつ、きちんと定期的にメンテナンスして使えば、一生ものの時計になりえることを考えると、約15万円は高くはないと思います。
同じムーブメントで30m防水、夜行塗料なし、平らな文字盤の「タンジェント」や「ルドウィグ」(約20万円)より安いです。お得です。
「タンジェント」より安いのは「ケースの製作コストが低いから」だとか、「ブランド・アイコンの値段は下げずに、入門用クラブは戦略的に値段を低めに設定した」など、憶測はありますがよくわかりません。
最後に
クラブ・キャンパス 36は上述の通り、夏でも冬でも季節を問わず、どんなカジュアルな服装でも合うような、シンプル、且つ、さりげない上質さをもった時計です。
放っていたら止まってしまい、使うときに、生命を吹き込むような感覚のある手巻き機構は、若干の不便さゆえに、モノへの愛着を生みます。
現代最高峰の精度を持ち、かつ非常にコストパフォーマンスの良い手巻き時計のひとつとして、男性、女性問わずおすすめ致します。
*1:グラスヒュッテには、時計ブランドのランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)や、グラスヒュッテ・オリジナル(Glashütte Original)もあります。
*2:ノモス・グラスヒュッテ公式ウェブサイト https://nomos-glashuette.com/ja
*4:先日、シンガポールの正規販売代理店で聞いたところによると、最近シンガポールでの定価は軒並み値下げしたらしいです。現在の円/Sドルレート(約82円)でいくと、約15万円になるので、定価は日本より安くなっているようです。ただ、日本でメンテナンスに出そうとすると、外国で買ったものは、いくら正規購入品であろうと、日本におけるメンテンナンス代の割引サービスを受けられないと思います。多分。