暗い日曜日にレコード屋巡り。
続いては灯台下暗し、自宅の割と近所にあった『RetroCrates』を訪問しました。
イーストコースト周辺の小洒落たエリアといえばこれカトン(Katong、加東)であって、East Coast RoadとJoo Chiat Roadが交差するあたりは、良い雰囲気の店がたくさんあります。追って(いつか[気が向けば])紹介したいと思います。
『RetroCrates』は、その交差点からJoo Chiat Roadを50 mほど北上した西側にあります。
両側の店の雰囲気からいかにシンガポール屈指のおしゃれエリアかがわかります。
階段を上って2階が新品レコードやオーディオ機器を扱うフロアで、屋根裏部屋みたいな3階には狭いながらも中古レコードコーナーがありました。
品揃えは、ロック中心のポップスとジャズが半々という感じ。クラシックは少々。日本歌謡曲はごく僅かに。
世界屈指(一番?)のレコード大国、日本のジャンル別専門店のような、来ればなんでもありまっせ感がない店だと、何枚も買えるような金持ちでもない限り、最初から決め打ちで、なんなら予約注文して行くような感じになってしまうのがシンガポールのつらいところです(帯付き日本盤も結構あったりして、おそらく日本に買い付けにも行っているせいか、一枚一枚がどうしても日本より高め)。
しかしそれでも店があるだけありがたいというもので、自宅に近いということもあり、たまーに足を伸ばすことになるとは思います。
ジャズレコードを右手人差し指でぴろぴろ物色していると、先日ジャスミン香に合う音楽として無理矢理紹介したデューク・ピアソンの『How Insensitive』の中古をなぜか新品箱の中で発見。36ドル(約3,000円)。もちろん1969年のオリジナルではなく多分90年代初頭の再発盤ですが、ピアソンのほかのアルバムなんて全くないのにこれだけ見つかった奇妙な偶然に喜び、つい買ってしまいました。
しかし聴いたことない新品も一枚買ったろかいな、などと多分20〜30枚くらいしかないクラシック箱を物色していたところ、これまた先日紹介した指揮者オットー・クレンペラーによるブラームスのヴァイオリン協奏曲の再発重量盤(180 g)を発見。
クラシック音楽の知識などほぼ持たない私が、クレンペラーという指揮者の演奏には「ここまで指揮者で変わるのか!」なんて今更気づいて超感動したこともあり、また、いかつい面構えのクレンペラーがヴァイオリン奏者のダヴィッド・オイストラフを人形みたいに操るような構図のジャケット写真がヤヴァイ雰囲気で名盤の予感がマン竹林。
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店内にあったソファに無遠慮に座り、今風に店の中でネット検索したところ、クラシック・ファンの間でも名盤中の名盤として有名なことがすぐにわかりました。しかし55ドル(約4,500円)もするので店の中を3周しながら逡巡の後、クラシック・ファンの熱いレビューを信じて購入。
マジで素晴らしい。さっきから繰り返して聴いています。
クレンペラーが指揮するフランス国立放送管弦楽団のシリアスで重厚なサウンドの上をオイストラフの清冽で豊潤なヴァイオリンが天上の響きを奏でます。
いや〜、やっぱりレコードはええな〜。
私が今使っているレコードプレーヤーはオートマティックではないので、A面が終われば、いそいそとターンテーブルに近寄ってレコード盤をひっくり返す必要があり、B面が終わればトーンアームを指で上げて元に戻さないといけません。
自分の意思でレコードを「かけている」はずなのに逆にレコードに使役されているかのような、もしくは「奏でていただいている」ような無意識的な感覚が、人間誰しもが持つマゾっ気を触発、それが一枚のレコードに対する愛着の醸成につながっているような気がします(レコードジャケットに頬擦りしたり黒光りする盤面にうっとりするなどの病的な徴候を見せるのはレコード好きなら常識)。
Spotifyではお勉強的に名盤を次々と聴けてそれは実に素晴らしい体験なんですけど、一枚の名盤に対する愛着がどうしても湧きにくい。愛着持ってどうすんねん、という見方はあれど、最近のレコードブームの再燃は、そんな手に触れられる愛着の対象を持ちたいという人間的な欲望の現れなのかもしれません。
というわけで、私にとっては金銭上の問題もあり、もはや名盤中の名盤、というかこれからの人生においても音楽だけに集中して繰り返し聴くだろうと思えるようなもの、もしくは「おかんに聞かせてもこっちが気恥ずかしくならない音楽」(*1)のヴァイナル・レコードだけを購入するようになってしまい、一方である特定のアーティストの作品をコレクションしようという気持ちも無くなってしまいました。
* * *
そんなことはさておき、ピアソンとクレンペラーのアルバムに奇妙なシンクロ二シティを感じた日曜日、下記RetroCratesから出た後、路地裏にて「見つけてくれたら謝礼5,000ドル(約40万円)払います」と書かれた迷子猫のビラを発見。キョロキョロ猫を探しながら帰路につきました。
RetroCrates
住所:448A Joo Chiat Road, Singapore 427661
営業時間:火曜〜日曜 12:00〜18:00(土曜は11時から。日曜は17時まで)
近くにMRTの駅はなし(2023年頃に延伸される予定のトムソン・イーストコースト線が開業すれば、マリン・パレード駅が最寄り駅となります)。駐車場は路上から周辺のモールなどたくさんあり。
*1:これは恐るべき基準であって、ほぼ全ての社会的メッセージを備えたロック、パンク、ヒップホップの類は買えなくなってしまう