腕時計サイズのトレンドは、「小さめに戻りつつある」なんて言われながらも、まだまだ小さめの時計の選択肢が、大きめに比べて少ないことに、小さめの時計が好きな私としては日々不満を感じているところです。
そんな中にあって、小さめから大きめまで、シンプルなものからゴージャスなものまで、ドレッシーなものからスポーティなものまで、幅広いレンジで、かつ、そのすべてのモデルが確固たるデザイン・フィロソフィで貫かれた美しい時計を提供しつづけるメーカーがあります。
それは、世界で最も有名な腕時計メーカー、ロレックス(ROLEX)です。
ロレックスというブランドについては、ここで紹介するまでもないので、公式サイトのブランド解説ページへのリンクと、『ロレックスについてあなたが知らない15のこと』という動画を、ロレックスを知るための参考までに、この記事の最後に貼っておきます。
私がロレックスを素晴らしいと思う理由のひとつは、男性が付けてもフェミニンにならない男前なデザインながら、サイズは小さめ(クラシカル)で、かつ間違いなくハイクオリティな時計を作り続けてくれているという点です。
世界で最も名の知れ渡った時計メーカーとして、トレンドセッターの側面を持ちながらも、同時にトレンドに左右されないクラシカルな時計を作り続けていることに、非常に好感を持てます。
ロレックスというと、ギラギラした派手な印象(デイトジャストのフリューテッドベゼルかっこいいと思いますが)をお持ちの方もあるかもしれませんが、実はとても保守的なデザインの機械式時計を堅実に作り続けている数少ないメーカーのひとつです。
というわけで、ロレックス・コレクションの中でも、最もシンプルな、三針ノンデイト『オイスターパーペチュアル』の34 mmの現行バージョン(Ref. 114200)を紹介します。
OYSTER PERPETUAL 34
オイスターパーペチュアル(OYSTER PERPETUAL)について
現在のコレクションの中で、単に「オイスターパーペチュアル」というと、ノンデイト(日付表示なし)のシンプルなシリーズを指します(以前はエアキング[Air-King]と呼ばれていたモデル)。
「オイスター」とは、ロレックスが1926年に発明した高い防水性能の「オイスターケース」のことを指し、「パーペチュアル」とは自動巻き機構(1931年発明)のことを指します(パーペチュアルカレンダー[永久カレンダー]機構ではない)。
つまり、「オイスターパーペチュアル」とは、防水性能の高いケースを備えた自動巻きのロレックス腕時計を意味し、有名なダイバーズ時計「サブマリーナ」もオイスターパーペチュアルであり、そのプロフェッショナル・モデルということになります。
ロレックスの多くの時計の文字盤に「OYSTER PERPETUAL」の表記があるのはそのためです。
その意味で、ノンデイトの「オイスターパーペチュアル」は、ロレックスの基本モデルであり、基本モデルゆえに、機能の数は最小限ですが、時間を知るための時計としての機能には一切の妥協がない、素晴らしい時計です。
というわけで、いかに素晴らしい時計かをレビューしていきます。
搭載ムーブメントと精度
ロレックス自社開発・製造(インハウス)の自動巻きキャリバー3130(28,800振動)を搭載しており、ロレックスのすべての時計と同様、クロノメーター認定付。
パワーリザーブは48時間で、秒針停止機能付き。
2000年から導入されたムーブメントですが、2012年にヒゲゼンマイ(ヘアスプリング)がパラクロム合金に変更され、耐磁性や耐衝撃性、温度変化への耐性が向上されているそうです。*1
ヒゲゼンマイとは、時間の進行を制御するテンプ(調速機)の一部品であり、時計の精度に最も影響する重要なパーツのひとつですが、ロレックスは、その製造が難しいとされるヒゲゼンマイを自社で製造できる数少ないメーカーのひとつです。
なお、同じオイスターパーペチュアルの39 mmバージョンには、後継のキャリバー3132(2010年)が搭載されており、パラフレックス・ショック・アブソーバがテンプに備わり、更に耐衝撃性が向上されています。
驚異的な精度
しかし、ムーブメントが1個古いからと言って精度が劣るかというと、必ずしもそうではなく、(もちろん個体差はあるでしょうが)私の所持するものは非常に高精度を保っています。
毎日付けていなくて連続装着日数がバラバラなため、あまり参考にならないかもしれませんが、いままで3回計測したところ、日差はそれぞれ、0秒/日、+1秒/日、+1秒/日と、驚異的な高精度でした。
また、方位磁石に近づけて確認しただけですが、帯磁もしていないようです。
以前レビューしたジャガールクルトのマスターウルトラシンムーンは、結構帯磁してしまっており、精度も+6~7秒くらいになっていましたので、ブルー パラクロム・ヘアスプリングは伊達じゃないということでしょうか。
文字板とインデックス
アール・デコ調とでもいいましょうか、実に端正な男らしい顔をしております。
文字盤の黒色は、エクスプローラのクールな漆黒とは異なり、サンレイ仕上げになっています。
上の写真でも少しその表情が見えますが、光の当たり方によって、グレーっぽく見えるときもあります。
普段は真っ黒なんですが、例えば夜、タクシーの後部座席に座りながら時計を見ると、一定間隔に設置された街灯に照らされるたびに、黒い文字盤の上を、白っぽい光の線がくるっと回転する様は、非常にセクシーです(だいたいサンレイはそうですけど)。
ロレックスの時計が、所有する喜びを感じさせてくれるポイントは、やはりこの立体的なアプライド・インデックスでしょう。
美しく直線的に面取りされたインデックスは、たしかホワイトゴールド製で、控えめな輝きが上品です。
インデックスはすべて夜光塗料が塗布されており、視認性も問題なし。
目盛りは分刻み。
実は36 mmとも迷ったのですが、36 mmの方は、3時、6時、9時がダブル・インデックスで、分目盛り5分ごとに数字が振られており、ちょっとスポーティな印象でした。
あれはあれでかっこいいのですが、個人的には全体的に34 mmの方がエレガントに見えたのと、黒文字盤に飽きて青やシルバーに変更すると(有料だが変更可能)、34 mmの場合は、3時6時9時がアラビア数字バージョンのものが用意されているので、2倍楽しめるかな、と思ったため34 mmにしました。
針のデザイン
針はロレックスの多くの時計に採用されている、バー・タイプです。
この先端が平らで、棒というか細長い長方形の針(実際は先端に行くに従って少しテーパードがかかっている)は、同じく長方体のインデックスと相まって、私にはフランク・ロイド・ライトの世界観のようといいますか、モダニズムの流れを汲みながらも、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている感じがして、とても好きです。
これがもしメルセデスやリーフ・タイプだと、執拗な直線の反復が生み出す神秘性が損なわれるような気がして、「バー・タイプ以外にない」というくらいばっちり決まったデザインだと思います。
ケースとラグ形状
ロレックス特有の、金属のマテリアル感、カタマリ感に対するフェティシズムを直球で刺激してくるような、頑丈なケースです(モノブロックミドルケースというらしい)。
この34 mmバージョンは、26 mm、31 mm、34 mm、36 mm、39mmという5つのサイズバリエーションの中のちょうど真ん中のサイズです。
最初試着したときは、かなり小さく感じましたが、直に慣れますし(大きさで迷っている人は悩まずに文字盤のデザインの好みで選べばいいと思います、まじで慣れます)、小さめがゆえに、文字盤とともに凝縮感はかなりあります。
鏡面仕上げのベゼルは、ドーム形と呼ばれる、ふっくらとしたカーブを描いたもので、少しヴィンテージな雰囲気、クラシカルな風情を時計に添えています。
絶妙なバランスのラグ
また、特筆すべきは、ケース一体型になったラグの形状で、ベゼルの大きさに対するラグの長さや太さ、ブレスレットに向けて傾斜する様は、とてもバランスが良く、目に気持ちよく、これほど男前なラグはないやろ、というくらい精悍な佇まいです。
ラグ幅(ベルト取付け幅)は、19 mm。
ラグの形状が時計の表情に与える効果は、ひとの顔の大きさに対する手足のバランスと同じで、とても大きいものがあります。
細いラグはシャープで清潔な印象、ケース一体型のずんぐりしたラグは無骨・ワイルドな印象、というように。
いままで、写真ではめっちゃかっこええやんと思っていた時計でも、実物を手にとって見ると、ラグの形状が思ってたんとちがう、みたいになって購入候補に入れることを見送った時計はたくさんあります。
操作性
ノーマルな3針、日付なしなので、至って普通で不満はありません。
防水・防塵性能の高まる、スクリュー(ねじ込み)式の竜頭(クラウン)を備えています。
竜頭を反時計回りに回して、ぱちっと跳ね上がった段階で、手巻き上げ可能、もう一段階引っ張ると秒針が止まって、時刻調整。戻すときは、竜頭を押し込むようにして時計回りにしっかり締める。
時刻合わせで針を回すときの感覚も、ヌラヌラした感触で好印象です。
ベルトとバックル
ロレックスが「オイスタースチール」と呼ぶ、904Lという高機能ステンレス鋼を採用した、なまめかしい感触のオイスター・ブレスレット(三連)は、ロレックスのステンレス製時計を特別なものにしています。
SUS304と比べて手触りだけで判別つけられるかと言うと正直アレですが、ブレスレットの作り自体がとてもしっかりしているので、ほかに持っている数万円の時計のブレスと比べると、質感は断然上です。
とくにそう感じるのは、細かい部分の仕上げ具合で、数万円の時計のブレスはコマの角が立ちすぎていたり、僅かな歪みがありますが、オイスター・プレスレットはそこが丸みを一切感じさせずにシャープな見た目でありながら、手触りはなめらかです。
デイトナやデイトジャストの三連ブレスレットは真ん中のコマがポリッシュ仕上げですが、オイスターパーペチュアルは3つともブラッシュ仕上げとなっており、華美な雰囲気は抑制されています。
また、昔のものに比べて、最近のロレックスは、バックルも上の写真のように、カチッとして、とてもいい感じに男心をくすぐる形状になっており、ロレックスがこうも人気がある理由は、身につけた時の、ただの時計だけではない、ブレスレット感=男のアクセサリー感が強いためによるのかな、などと考えたりなんかして。
実際、ステンレスが気持ちいいので、このブレスレット感は、結構別格。格別。
服装/シチュエーションへの適応性
非常に万能です。万能すぎて、ほかの時計の出番が減るくらいです。
個人的には、仕事でも、契約書調印などの重要な局面や、各種懇親会に参加するときなどは、ベルト(ストラップ)は黒革のものを装着した方がよいとは思うし、自分もそうしますが、今日的なドレスコード解釈においては、仕事中に黒文字盤のステンレスベルトの時計は、十分許容範囲と言えましょう。日本もシンガポールもクソ暑いし。
いっそのこと、スポーティさが少なめのこの文字盤の表情なら、革ベルトに交換してもかっこいいかもしれません。
また、きれいめカジュアルでもまったく問題なく、逆にこのシンプルな文字盤がオシャレ度をアップさせる効果が期待できますし、実際、流行の発信地イタリアなんかでも小さめ時計を付けることが流行り出したりしてるとかなんとか・・・(ソース曖昧)。
もちろん、Tシャツ・ノーパンでも問題ありません。いや、あります。
△参考リストショット(ノーパン時)。
しかし携帯電話のカメラで写真を撮ると、時計がやたらと大きく見える(自撮り写真で鼻がでかくなるのとたぶん同じ現象)ので、ネットに上がっている写真も、だいたい時計がかなり大きく写っていると思った方がよいです。
実際は、自分の目で30 cmくらいの距離で見ると、もっと小さく見えますので、時計選びの際は、必ず試着するようにしましょう。
防水性と耐久性
防水性能は100m防水です。
スクリュー式の竜頭なので、きちんと締めていれば、プールでの水泳程度なら何の支障もないと思います。
ただし、ご存知の通り裏蓋に嵌っているガスケット(パッキン)は消耗品なので、定期的な防水性チェックは必要です。
耐久性はよくわかりませんが、全身ステンレス&サファイアクリスタル風貌なので、頑丈と思います。
なお、904Lステンレス鋼は、304より耐摩耗性が優れているとのことですが、日常使いをしていると、ガツンと硬いものにぶつけることはあるため、ベゼルやブレスレットに、小傷はどうしても付いてしまいます。
この高機能ステンレスのソリッド感がロレックス好きを虜にするのでしょう。
価格について
最近は、バブルと言える状況で、値上がりのペースがすごいです。
人気モデルの市場価格が、調子こいてこの10~15年で上がりまくった煽りを受け(中古価格が発売当時価格の2倍以上するモデルもあり)、全体的に定価もアップ、2018年11月現在、オイスターパーペチュアル 34 mm(114200)の定価は、今調べると、S$6,970でした(あいにくシンガポールから公式サイトを見ると日本円が表示されず)。
これだと今のレートで、58万円くらいですが、価格.comで見ると、並行品を扱う店で、だいたい50万円前後といったくらいでした。
これでも、現行コレクションの中では、最も安い部類です。
しかし強調しておきたいのは、比較的安いからと言って、造りが他と比べてチープなわけではありません。
よくオイスターパーペチュアルは、ロレックスの入門時計とか言われたりしますが、それは時計屋のマーケティング文句であって、ロレックス自体はマーケティング上そんなことは一切言わずに(多分)、すべての時計に、妥協しない高いクオリティを提供しています。
シンプルで流行に左右されず、一生使える時計として、このオイスターパーペチュアルは、とてもオススメです。
最後に:「腕時計の原形」のような腕時計
日本を代表するデザイナー、原研哉氏、深澤直人氏、佐藤卓氏の共著による『デザインの原形』という、我が家のトイレに常備して、うんこするたびに手に取る、素晴らしい本があります。
この中で、「腕時計の原形」としてグランドセイコーが紹介されています。
紹介されている内容については、ぜひ本書を手にとって確認いただきたいのですが、少なくとも本書の言う、何らのメタファーにもなろうとしない、日本人サラリーマンに似合う、精度を追求し続けた結果としての腕時計とは、現行の大きめサイズのキラキラしたグランドセイコーよりも(*2)、ロレックスの同じくキラキラしたコレクションの中で、地道な技術開発を続けながらも、ロレックス旧来の「実用時計」「労働者のための頑丈な時計」という本分を地で行くような、控え目で視認性抜群の見た目と、堅牢なケースを備えた、小さめオイスターパーペチュアルの方を、(どれほどロレックスというブランド自体がステータスを表示する機能を否応なく備えていようとも)「腕時計の原形」と呼ぶべきではないかと、かなり贔屓目で考えております。
どこにでもありそうでしかしロレックスにしかない無二の魅力をさらりと纏う
OYSTER PERPETUAL 34
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REFERENCES
▽公式サイトのブランド紹介ページ
https://www.rolex.com/ja/about-rolex-watches.html
▽YouTubeビデオ
15 Things You Didn't Know About ROLEX
1番目(ナボコフの小説『ロリータ』の冒頭部分を連想させるブランド名称の由来に関する逸話=ローレックスは響きが良く誰でも発音しやすいからというだけでとくに意味はないが多分この名称はブランド価値の向上に大きく貢献したはず)や、3番目(オーナーや株主がおらず利益のほぼすべてを社員の給与や事業向け再投資[宣伝費割合も高そうですが]に回している点)などが、ウソかホンマか興味深いです。
*1:ロレックス ムーブメント Cal.3130 - Movement Cal.3130 | Watchpedia
*2:グランドセイコーは一つも持っていません。37 mmのクオーツは欲しいです。例のスノーホワイトな文字盤のスプリングドライブモデルを、36 か37 mmで出してくれたら買うと思います