誤解されないための和文英訳のコツ
仕事の打合せにおいて、英語をしゃべるのが苦手でも、英文の書類を使って根気よく説明すればなんとかなります。
でもその書類に書かれた英語が、おかしな英語なら。。。
理解してくれない、ならまだいいですが、最悪なのは変な英語にしたために相手に誤解され、こちらは相手は理解したと思いこんでしまうことです。これはたいてい、のちのちトラブルの原因となります。
というわけで本記事では、ビジネス文書を英訳するときに、英語に不慣れな人がしやすい間違いを挙げて、いい感じに書き変える例や、憶えておくと便利な単語・表現を紹介します。
例はたくさんあるし、私も日々、ネイティブに英語を書き直されて「ああ、なるほどな」と思うことはよくあるので、自分の勉強の意味でも、この記事はその都度更新されていくと思います。
間違いやすい表現や便利な単語まとめ(11)
【ご留意事項】
- メールなどのやや口語的な文章ではなく、仕様書や説明書、企画書などのスタティック(静的)な文書の英訳を念頭に置いています。
- 「悪い例」は英語初心者が書きがちな英文で、「良い例」がそれをいい感じに書き換えたものです。「良い例」に文法的な間違いがあっても、英語は常にベターであればいいということで笑って許してください。
1. 人称代名詞は基本的に使わない
こなれた英訳とそうでない英訳を見分けるには、いかに「We」や「You」を使っているかでだいたいわかります。
静的な文書(とくに論文)では基本的に、人称代名詞を使いません。「You」や「We」だけでなく、「your」とか「us」も(もちろん例外はあります)。できるだけ客観的である必要があるためです。
悪い例:You must submit your SOP to us.
良い例:The Contractor shall submit SOPs to the Owner.
【参考】Owner:発注者、Contractor:請負業者
2. 主語は必ずはっきりさせる
日本語は主語のあいまいな言語です。例えば「見積書は正副2通提出のこと」など。こういう文章を下手に訳すとわけがわからなくなります。
悪い例:Two sets (main and sub) of qotation should be submitted.
良い例:The Contractor shall submit a Quotation in duplicate.
文章を英訳するときは、省略されている主語はないかよく考えて、その主語が見つかったら、日本語で書けばくどく感じるくらいに主語をきちんと書くようにすれば、だいたいうまくいきます。
3. 日本語の「~すること」「~とする」はすべてShallでよい
日本語の文書にはやたらと「~すること」という表現が出てきますが、これは「誰々は~をしなければならない」という意味です。
よって、こういう和文を英訳するときは、ぜんぶ「A(主語)shall ~」としてしまってよいと思います。
「ought to」とか「have to」とか「must」とか、学校で習った「~しなければならない」は全部忘れて、文書で「shall」一択でOKです。
やや馬鹿の一つ覚え的な雰囲気が漂いますが、誤解されるよりはましですし、技術関係の書類はほとんどそんな感じです。
4. 「~できる」「~が可能」のいろいろな表現
「できる」というとどうしても「can」が思い浮かびますが、「can」は基本的に主語がヒトのときに使いますし、モノでも使えますが口語的な感じになり、ビジネス文書では通常避けられます。
また、「可能」という日本語から「possible」という単語を使ってしまうひとが多いです。「possible」は「起こりやすそう」「できそう」という可能性であって、「何々ができる」という意味では使われません。
ビジネス文書で使う「~できる」で憶えておくと便利な単語・表現は以下の通りです。
be capbale of ~ (~できる)
have the capability to ~ (~する能力がある)
enable ~ (~を可能にする/有効にする)
function as ~ (~として機能する)
work as ~ (~としてワークする=できる)
5. 「A(主語)~する責任がある」の色んな言い方
仕様書や契約書等では「~する責任がある」という表現が頻発します。
「責任」というと「responsiblity」で、これを使っても問題ないですが、ほかに以下の表現を憶えておくと、英文がいい感じになると思います。ただ、こういう責任のパートはセンシティブなので、間違わないようご注意ください。
shall have responsibility to ~ (~する責任を負わなければならない)
shall be liable to ~ (~する義務を負わなければならない=責任を負う)
be obliged to ~ (~する義務を負う)
A shall be a scope of B (AはBの所掌である=Bの所掌範囲とする=責任範囲)
A's scope (Aの所掌範囲=Aの責任範囲)
(末尾に)at their own cost (彼ら自身のコストで=彼らの責任で)
6. 抽象的な副詞はあまり使わない
法律用語というか契約書には"努力義務条項"というのがありますが、いくら合意の難しい条項でも、努力義務の規定はできるだけ排除したほうが良いように、ビジネス文書でも、そのような「できるかぎり」とか「注意深く~する」などという表現はできるだけ避けた方が良いです。
裁判沙汰なら「できるかぎり努力して」とか「最善の努力」に関する程度の解釈に関しては、判例に基づきますが、例えば、仕様書などに「carefully」(慎重に~、注意深く)や「efficiently」(効率よく)などの副詞があれば、それらは基本的にガン無視されるものと考えたほうがよいです。
また、「as soon as possible」とか「as much as possible」などの「できるだけ~」系も、日本人の考える"できるだけ早く"と、外国人のそれは全く異なることがあるので、非常に危険です。
上記3項で書いたように、なんでも「shall」(必ず~すること)や「いつまで」で規定してしまうべきです。その方があとでなにか問題が起こっても対応できます。
7. 未来に「~される」という意味の表現
未来となると、英語に不慣れな方はどうしても「will」を使って文章を組み立てようとします。
絶対におぼえておくべき表現は、「名詞(関係代名詞)+to be ~」です。
これは、名詞の後にくっつけることによって、「これから~される何か(名詞)」という複合語をつくることができます。
悪い例:The operation manual which will be given by A.
良い例:The operation manual to be provided by A.
これ学校で習ったのかどうか忘れましたが、これは中学校で教えたほうがよいくらいよく使う表現なのに、英語初心者の日本人はあまり使いません。一方、中級以上になるとめちゃくちゃ使います。
ちなみに、To beの後ろに動詞の過去分詞をくっつけると、「(未来)~される(予定)」となります。
TBD: To be decided (後日決定)
TBA: To be announced/advised (後日発表/後日指示)
TBC: To be confirmed (後日確認)
8. 「~かもしれない」「変わるものとする」という表現
文書英訳時に慣用句として絶対におぼえておくべきなのは、「be subject to ~」です。
これは「~の対象とする」という意味ですが、非常に便利に使えます。
まず普通に、「A shall be subejct to discussion(たぶん"discuss"でもよい).」とすれば、「Aは今後の議論の対象とする」=「Aはまた今後協議しましょう」という意味になります。
それだけでなく、ビジネス文書では「あとで内容が変わるかもしれないので留保を付けたい」ときがよくあります。「数量は参考だからあとで変わりますよ」とか。
そういうときも、
「The above quantity shall be subejct to change. 」とすれば、「上記数量は変化の対象となる=上記数量は変更になる場合がある」という意味になります。
9. 「~により」で憶えておくべき表現
よく使う「~による~/~に従って~」は、ついつい中学で習った「according to ~」を使うひとが多いように見受けられます。
これは「~によれば」という意味で、会話では、だいたい伝わりますが、文書では避けたほうがよいです。
普通に「based on~」(~に基づいて)で良いですが、こればっかり使うのもなんなので、おぼえておくべきは「as per~」です。
例えば「指示に従って取り付ける」みたいな英語にしたい場合は以下のようにします。
悪い例:AAA shall be installed according to the instruction.
良い例:AAA shall be installed as per the instructions.
「as per」は「~により/~に基づき」という意味になります。
10. 「上記」「下記」のいろいろなバリエーション
「上記」は、英語初心者の場合、たいてい「mentioned above(もしくはabove mentioned)」を使います。これはたしか高校で習ったような気がします。
別に間違いではないですが、mentionばかりだとアレなので、ほかの表現の仕方も憶えておくと、英文に彩りが出ます。
noted above (上記の)
stated above (上記の)
described above (上記の/上で説明した)
specified above (上記の/上で指定された)
stipulated above (上記の/上で規定された)
provided above (上記の/上で規定された/条件的に与えられた)
prescribed above (上記の/上で規定された/指示された)
shown above (上記の/上で示された)
spelled out above (上で規定/指摘/説明された)
above said (上記の/上で言われた)
などなど。なかでも仕様書でよく使う「specified」と、契約書でよく使う「stipulated」「provided」はおぼえておいたほうがよいです。
以上。
まだまだありそうですが。。。
英訳時のTipsはまだまだあるような気がしますが、疲れたのでこの辺で。冒頭にも書いた通り、本記事は、なにかネタを思いつくたびに更新していくつもりです。

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